1-35章 曇天
「ちょっとどうするのよ。あの子と一緒に入れないなんてあたしは嫌よ。せっかく仲良く3人で入れると思ったのに」
「入れるとは決まったわけではないだろ。試験に受からなきゃバルセルク魔法学校には入れない」
「あたしたちの実力だったら全員入れるわよ。それなのに...」
マリンは勢いよくベットにダイブする。
「ギフトの有無なんかで足きりをするなんてバカバカしい」
マリンは枕に顔をうずめたまま不満を口に漏らした。あの後、俺たちはそのまま家に帰らされたのだが、ギフトの条件が入学条件にかかわっているなんて、当然納得できるわけはなかった。しかし、少なくともガジャが学校を去る時まではその制度は健在で、例外は存在しなかったという。ギフトは体にあるタトゥーで判断され、試験でそのことがごまかせても、入学時のギフト照合テストにて偽造がばれて、入学を拒否された例も数は少ないがあったらしい。
そういった人は、試験ででギフトを持っている人より実力は上だったはずなのに、入学できないなんて、そんなことあっていいのだろうか。
「なんでこの世界ではこんなにギフトが大事にされているんだろう...」
俺は素直に思ったことを口に出す。「そんなの決まってるじゃない」と強い口調でマリンが言うと、彼女はペティーがいつの日か作ってくれたクマのようなぬいぐるみを抱きしめて吐き捨てた。
「ギフトは神からの贈り物だってこの世界では信じられているからよ。だから大人はギフトを持ってるやつこそが神に選ばれた者として大切にされるの。ホントアホらしい。それじゃあ神に選ばれなくても、必死に努力して頑張ってきた人はこの世界じゃいる価値もないゴミ同然なの?」
マリンはぬいぐるみに顔を埋めると、そのまま背を向けて寝転んでしまった。俺は何も答えることができず、ただ窓からペティーたちがいる方角を見つめることしかできなかった。
そして俺は悟った。俺はこの世界における知識や価値観を全く把握しきれていないことに。ギフトを持っているのとそうでないのとでここまで扱いや境遇が違うのかとこの数時間でより痛感させられた。俺はあの時、ペティーの話をもっとちゃんと聞いてあげるべきだったのだ。
「それとあんたのこともだけど...」
マリンがこちら側に寝返りを打つ。
「ギフトのことまだペティーに言ってないでしょ。あの子ずっとあんたと一緒にここで暮らせると思ってたはずよ」
俺はハッとしてマリンのほうを見た。「今更気づいたの?」と言わんばかりの目でこちらを冷たい視線で見つめていた。
「バルセルク魔法学校に行けばあんたとペティーは離れ離れ。普通にしてれば数年はあの子に会えなくなるわよ。」
「それは...」
ペティーとは一緒にいたい、それでもバルセルク魔法学校にいって魔法の研究や現世への戻り方を調べたい、この二つの相対する問題はこれからの人生で重要な分岐点になるかもしれない。俺はこの重大な決断を近いうちに形にしなければならない。俺がしばらく下を向いていると、マリンはベットからぴょんと立ち上がると、
「サトルがどんな決断をしようとあたしはバルセルク魔法学校に行く。もっと強くなりたいからね。でも、これだけは忘れないで。自分の大切なものに優先順位をつけちゃダメよ。どんなに時間がかかっても、どんなに距離が離れていても、自分の大切なものは必ず最後には手に入れなさい。それだけよ」
マリンはそれだけ言うと、「水飲んでくる」といって扉を出た。自分の興味とペティーのこと。俺はどっちを選ばなきゃいけないのか今すぐには決めることはできなかった。




