1-30章 ただ貪欲に
あたしは鬱蒼とした森の中にズカズカと足を踏み入れた。周りには無数の木が枝を伸ばしていて、顔の前に飛んでいる虫を手で払いながらあたりをさまよっていた。
サトルを見失ってからもう数分はたったが一向に見つかる気配はない。かといって元居た場所に引き返そうにも深く入りすぎてしまったため、戻り方もわからなかった。
「要するに、八方ふさがりってところね」
あたりに人の気配はなく、サトルはどこかに身を潜めてあたしへの反撃の機会をうかがっているのだろう。
"ガサガサ"
「!!」
あたりでいきなり音が聞こえた。何!?本当は何かいたの?全く気付かなかった。魔獣や獣の類か。それとも...
「いいわ。どこからでもかかってきなさい」
あたしはどこからでも攻撃が飛んできてもいいように、自分の周りに火を出しておいてあたりを警戒する。無駄うちは魔力の消費があるし、下手に動いて隙を見せるわけにもいかないからだ。
音がしてからたっぷり1分ほどが経過した。あの後から人が動いたような気配はなく、場所も見当がつかない。マリンは集中を切らさず落ち着いて周りを見る。そして、自分の後方左から物音が聞こえる。
"ガサガサ"
「そこよl!」
あたしは火炎放射をイメージして音の周囲の木に魔力を放つ。もちろんただのイメージなので炎が木に燃え移ることはない。火を放ってすぐにあたしは打ったところに移動する。サトルを追撃するためだ。しかし、
「誰もいない...」
そこには人や獣はおろか、その形跡すら見当たらなかった。じゃあさっき聞いたのは幻聴?たしかに、少し風は吹いていて雑音もあるけれど、そんな聞き間違えをしたの?
"ガサガサ"
また、後ろから音が聞こえた。今度は振り返るだけにして魔法は打たなかった。恐る恐る近づくと、やはりそこには誰もいなかった。
「一体どういうこと?」
あたしはひたすらに困惑していた。おそらくこれをやっているのはサトルなのだがこの戦法にいったいどんな意味があるのかあたしには理解できなかった。別にあたしに攻撃の意志があるようには見えないし、あたしの魔力切れでも狙っているのだろうか。しかし、そんなことで魔力切れを起こすほどあたしも馬鹿じゃない。待っててもらちが明かないため、あたしは大声を出す。
「サトルーさっさと出てきなさい。あたしの魔力切れを狙ってるならそんなこと無駄だからあきらめて出てきなさーい」
サトルには聞こえているだろうが、もちろん返事はなかった。しかし、周りからサトルが飛び出してくる可能性がある以上、警戒を解くわけにはいかなかった。
その後1分おきにガサガサと物音が聞こえ、その方向に目を向けるがそこには誰もいなかった。あたしはこのやりとりが5回ほど続いた。背中には変な汗をびっしょりとかいて、動いてるわけでもないのに息切れもしてきた。
「...」
あたしは、もう完全に考えることを放棄してただ突っ立ているだけになっていた。適度に物音がするせいで緊張状態がずっと続いていて完全に脳が焼き切れているようだった。
そのとき、自分の体に水のカーテンのようなものが迫ってきているが目の前で気づいた。真正面で放たれたであろうそれをあたしは全く反応することすらできなかった。通常時だったら絶対に反応できるはずなのに。
「クッ!!」
水は本物ではなく、衝撃だけが体に伝わってくる。そして今度は横から思い切りタックルが来てあたしはそのまま倒れこむ。いきなりの衝撃に目を丸くしていると、そこには勝ち誇った顔のそこら中土で汚れているサトルがあたしの上にまたがっていた。
「へへ。この勝負俺の勝ちだな」
サトルは鼻の下をこすりながら生意気そうに自分の勝ちを宣言した。




