1-29章 決戦の火蓋
マリンは一気に加速すると、俺に襲い掛かってくる。
「くっ!!」
俺は、眼前まで伸ばされた手をすんでのところでかわす。特訓の時も感じていたが、現世にいた時もいくらか運動神経がよく、いまだに自分の体なのにうまく動かすことができない。それでも、
「俺より数段速い...」
今の俺よりマリンの動きは格段に速かった。辛うじて目でとらえられたが、蹴り足をジェットのように風を出して推進力を得て加速しているのは、ペティーでさえやってなかった高等技術だ。
「魔法師のわりに案外動けるのね。ガジャさんとの特訓のせいなのかしら」
マリンは振り返ると、いかにも余裕そうな表情でこちらを見ている。
「それならこんなのはどう!!」
マリンが下から上に手を振るとどこからともなく真っ赤な炎が湧き出てくる。
「ハッ!!」
マリンが右手を前に出すと、炎がこちらに向かってくる。かなりの速さで向かってきてよけることはできない。
「俺の魔力で打ち消すしか...」
俺は、自分の中で消防車をイメージする。あそこまでの水圧は出なくても水をイメージして放出すれば、迫りくる炎を消し去ることができるだろ。
「ハッ!!」
マリンがしたように魔法を繰りだすと、魔力がさく裂して自分もろとも後ろまで吹き飛ばされ、うつぶせに倒れる。
「炎なんて危ないだろ危うく死ぬとこだったわ!!」
俺が泥まみれになりながら必死に抗議すると、マリンは肩をすくめる。
「あれくらいじゃ死なないわよ。それに今の炎は本物じゃないわ。私のイメージで作り出した炎だからね。火傷はおろか熱さすら感じないわよ」
やれやれと言った感じでマリンは言う。魔法はイメージ。つまり実際に炎を出すわけではなく、炎のイメージを魔法で再現して単純に放出している感じなのだ。それでもしっかりとダメージなどは魔力によって感じるのだろう。
「それなら...」
俺は、一目散にマリンとは反対側に向かって手で風を放出しながら後退する。こんな場所では戦闘においての魔法技術で劣る俺には勝ち目はない。
「ちょ、ちょっと待ちなさい!!」
マリンは俺が逃げた方向に慌てて追いかけてくる。マリンの加速は俺の風を使ったダッシュよりも早いであろう---だがそれは障害物のない空間においての話だ。
「くっ...この木邪魔ね」
マリンのダッシュでは細かい動きはできないため、思うように動くことはできない。かたや俺はこのあたりの地形をある程度覚えているし、手で放出する風により細かい動きができる。当然、俺のことはすぐに見失った。
「チッ、サトルの奴どこに隠れたのよ」
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一方そのころ、サトルとマリンが森の中へ行ってしまった後。
「ねえお父さん。サトル君どうして森の中に行ったの」
ガジャはただ静かに目をつむって座ったままでいた。「ねえ...」とペティーが心配そうに聞くとガジャは目を開く。
「戦闘において大事なことは二つじゃ」
ガジャはペティーのほうに向きなおる。ペティーはごくりとつばを飲み込む。
「一つは相手の土俵で戦わず、自分の土俵に相手を引きずり込むこと。もう一つは...」
ガジャはサトルが逃げ、マリンが追っていった森のほうを見やる。
「自分の実力を見誤らないことじゃ」
それだけ言うとガジャはまた静かに目を閉じ、ペティーも諦めたのかただ、二人が消えていった方角に目線を動かすことしかできなかった。




