1-2章 未知の邂逅
深い森の中を10分ほど歩くと、森を抜けて、看板のようなものが目に入ってきた。
「着いたわ。ここが」
アンがそう言って、村の入り口らしきところを指さす。
「ん?」
俺は、目を凝らしながら自分の頭上に掲げられている文字らしきものを眺める。しかしどんなに考えてもその文字を読むことはできなかった。読めない文字を見ると、自分がおかしくなったのか、周りがおかしくなったのかわからなくなる時、あるよね。ないか。大方、「ようこそ!ウィットネスへ!」といった感じだろうけど。
「とりあえず、町を案内するわ。ついてきて」
言われるがままに、俺はアンの後をついていく。入口の門をくぐるとそこには、豪華ではないが、ご老人や子供が元気に交流している話に聞いたような活気ある村だった。
「おーアン、帰ったのか。その子は?」
「始まりの森で見つけた子なの。最近多いわね」
「ほうかほうか。それじゃちゃんと面倒見てやるんじゃぞ」
70歳ぐらいの見た目の男性がアンと俺のことについて話している。そのあとの二人の会話を話半分に聞きながら、俺は村の様子を観察する。子供とお年寄りの数は半々くらいで、男女も気持ち男が多いくらいでそこまで差があるような感じはしなかった。研究所で、難しい機械と難しい顔をした上司に囲まれて育った俺としては、若い女子がもっといてほしかった。現世では勉強漬けで、彼女いない歴=年齢だった俺からしてみたら異世界でくらいハーレムを作ってみたかったが、
「じゃあまた後でな」
話が終わったのかアンは俺に「お待たせ」と告げると、俺を連れて道なりをまっすぐ進んでいく。そういえば、アンはこの村にしてはかなりの若い女性だ。しばらくは、子供なのをいいことに、アンに甘えて何も考えずに過ごしたい。そう野暮なことを考えながらしばらく歩くと、右手にこじんまりとした家が一軒見えた。
「ここが私の家よ。さあ入って」
そう言って、アンが自分の家を指差す。言われた通り、俺はアンに続いてその家にお邪魔する。家の中に入り部屋の中を見渡すと、一人で暮らしているのだろうか物が少なく、質素なイメージが第一印象だった。けど、決して古臭いとか、不潔といった印象はないいい意味で素朴で落ち着いていた雰囲気の家だった。
「狭い家だけどゆっくりしてね」
「いえ、おれはこの雰囲気結構好きです。」
今考えていたことが無意識に口から出る。それからアンはその長い髪をまくしたてながら、
「今日から君には、この家で暮らしてもらうの。この村では子供を保護した大人がその子を育てる決まりになっているの。もちろん無理にとは言わないわ」
これから自活していくのか、とすでに現世に引き続き胃が痛くなるような展開になりそうだった俺にとって、アンの提案は願ってもみないことだった。
「全然かまいません。今日からどうぞよろしくお願いいたします」
「まあ。まだ小さいのにしっかりした受け答えね。お姉さん感心しちゃった」
一応、研究所職員とはいえ社会にある程度もまれて生きてきたため、この程度の受け答えは造作もないことだった。
「そういえば、まだ名前を聞いてなかったわね。お名前はなんていうの?」
そう聞かれ俺は面食らったように頭を抱える。しまった、名前は完全に失念していた。なんか、なんかないか。そうだ。俺の現世の名前でも使うか。
「...」
あれ、俺現世では何て名前だったけ?まずい!自分の名前もわからないようなアホな子だと思われたくない。俺は学生時代に好きだったアニメやマンガから無難そうな名前をフル回転させて探す。そして、
「サトル...です...」
結局出た名前が今は忘れてしまった俺の名前がなぜか嫌いでゲームの名前を決めるところで俺がよく使っていた「サトル」という名前に決めた。この選択が吉と出るか凶と出るか。
「これからよろしくお願いします。」
「うん、よろしく!」
いろいろありながらも、俺の人生初めての異世界生活Day1が幕を開けたのだ。