1-28章 新たな風
翌日、俺たちはいつも通りガジャの家で農作業の手伝いをしに向かった。ガジャの持つ畑に向かうとすでにガジャとペティーは作業を始めていた。
「おはよう。ペティーとガジャさん」
「おはよう」
「おはよう。サトル君。マリンちゃん」
ペティーは魔法で手についた泥をはらうと、動いてて暑かったのか袖をまくった。マリンは一歩進み出ると、
「ここで農作業をしているの?」
「そうじゃ。じゃが最近は寒くなってきたし、やることも少なくなってくるじゃろうな」
ガジャは自分の伸び切った白髭を触りながら答える。
「そしたらサトルとマリンと魔法の練習してもいい?ねぇいいでしょ!?」
「お...おう...」
マリンが食い気味にガジャに話しかけていてガジャも少し面食らっていた。ペティーはそのやりとりを見ながら薄く微笑む。
「マリンちゃんの魔法楽しみ。ギフトを授かっているってことは魔法も上手なんでしょ?」
「ずいぶんハードルを上げてくれるわね。でも大丈夫よそこらへんの大人よりははるかに強い自信があるから」
マリンは自分の胸にドンと手を当てて、フンと鼻息まで立ててそれを見たペティーがまた笑っていた。そんな中、俺は一人で昨日のマリンとのやりとりを思い返していた。
「もしかして、ペティーにギフトのことを隠しているわけじゃないわよね?」
俺自身、本当にギフトのことを隠していなかったけれど、俺にギフトがあることを知ったらペティーは悲しむだろうか。それともギフトがあることを喜んでくれるだろうか。
「...」
ペティーの中でのギフトへの価値基準が俺の中では曖昧だった。マリンのギフトに関しては特にネガティブなイメージを持っていなかったが、あの日のペティーのギフトへの思いはただならぬ過去が関係していてそれを引きずっている可能性も十分に考えられた。一度ギフトを持っていると言ってしまえば、いい悪いはさておき、後戻りすることはできない。だから、
「まだ、言うべき時じゃない」
いつか、ペティーの中で心の整理ができたと俺が思ったときにこのことを話すのでも遅くないのかもしれない。あるいは...
「サトル。あんた何ボーっとしてるのよ。早くしないと置いていくわよ」
「うん。今行く」
俺は胸にちょっとしたしこりを残しつつも、その思いを振り払うように頭を振ると、ペティーやマリンたちに連れられて山のほうに歩いて行った。
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「ここらへんでいいじゃろ」
ガジャは適当に開けた山の中にある切り株に腰を下ろした。
「今からサトルとマリンで模擬戦闘をする。魔法やらなんやら使って好きに戦っていいぞ」
「ちょ、ちょっと待って!?模擬戦闘って。俺戦ったことなんてないんだけど...」
「理由は二つ。一つはマリンがお主と戦いたいと言っていること。もう一つはこれが終わってから話す」
「理由は分かったけど、ペティーは参加しないの?」
俺はガジャの隣でちょこんと座っているペティーのほうを見る。
「私、戦いのほうはあまり得意じゃないの。移動とか治癒の魔法は得意なんだけどね」
と申し訳なさそうに言った。
「そういうことだったんだね。魔法使うの上手いから戦闘も得意だと思っただけなんだ」
俺は軽く手をあげてペティーに謝罪する。「謝らないで」とペティーも手を振り返してくれる。そして俺は目の前にいる相手に視線を向ける。
「いきなり模擬戦闘なんていったいどういうつもりなんだ?」
「どうもこうもあたしがこういうのが好きだからよ。それと...」
マリンは模擬戦闘のために準備運動をしている。激しく動くためか今日のマリンは髪を高いところで一つに結んでいた。
「バルセルク魔法学校にあんたも行きたいんでしょ。さっきガジャさんから少し聞いたわ」
それはいつの日か俺が研究員になりたいとガジャに話したときに名前が出てきた学校だったと記憶している。ペティーはどういうわけか、心配そうに俺のほうを見つめている。マリンがそれを一瞥する。
「あそこの入学試験は筆記や精密な魔法技術のテストもあるけど一番大事なのは...」
マリンは気合を入れるためかフッと短く息を吐いた。
「実技訓練。まあ卒業後はほとんどが国の魔導部隊に所属することになるから当然っちゃ当然よね。あそこは優秀な兵士を欲しているのよ」
学校とは名ばかりでその実態は兵士の養成学校なのだろうか。あとでガジャに詳しく聞く必要がある。
「そういうわけで無駄話は終わり」
パンと短く手を叩くと、マリンははファイティングポーズをとる。おれも見様見真似で一応ファイティングポーズをとる。
「行くわよ」
マリンは一気に加速して、俺に襲い掛かってきた。




