1-26章 そびえたつ運命
その後、俺はアンの家に行ってアンにマリンのことについて説明をした。アンはマリンを見て最初は驚いていたが、徐々に真剣に話を聞いていき、最終的には、
「ガジャさんの言う通り、マリンちゃんは私の方が引き取った方がいいかもしれないわね」
という結論に至った。そしてアンは俺に、
「サトルは大丈夫?」
と聞いてきたが、話の流れ的に俺にはもはや断るような権利はすでになかった。それよりも俺はさっきから気になっていることがあった。それは、
「...」
マリンからくる刺すような視線である。ずっと監視するように俺のことを見ている様子に何か俺に聞きたいことがあるのだろうか。あまりに露骨なので、俺もさっきから気になってしょうがなかった。
夕食になると、アンとマリンと俺で三人で食卓を囲んでいた。
「マリンちゃん食べ方お上品ね。お父様とお母様の教育の賜物かしら」
「そんなことないわ。物心ついたときからこんな感じだったわよ」
マリンとアンの会話は、まるで本物の親子のようだった。マリンのことを見ていて思ったが、彼女のコミュ力は抜群なものだ。第一印象が最悪だったペティーとも帰りではある程度仲良くなっていたし、アンやガジャなどの大人とも普通に会話できていた。俺なんかたまにアンに敬語で話してしまうこともあるのに、彼女のコミュ力は彼女自身の強気で前向きな性格が要因になっているのかもしれない。
「サトルどうしたの?食べないの?」
隣に座るマリンが箸が進んでいない俺を気遣ってくる。
「いや、なんでもないよ」
そういって、俺は目の前にある食べ物をガツガツとかきこむと、「ごちそうさま」と挨拶をして風呂に直行した。今日は何かと疲れたから湯船につかってゆっくりしたかった。俺は服とズボンとパンツを手早く脱ぐと、軽く体を水に流しザバーンと湯船に入った。
「ふうーきもちいー」
湯船につかってボーっとするのは一日の中でも至福の時間だった。この時だけは当座の悩みも忘れることができる。すると突然、風呂の扉がバッと開かれ、人が入ってくる。
「な、なんでお前が入ってくるんだよ!?」
あろうことか、俺が今悩んでいる張本人であるマリンが胸元にタオルを当てて入ってきたのだ。
「...」
しばらく黙って俺の方を見ていると、
「悪いわね。私もそっちに入っていいかしら?」
「う、うん」
しまった!反射的にうなずいてしまったが、これは断らなきゃいけない場面だった。そうこうしているうちに、マリンは体を流して俺の隣に並んで入ってきた。幸いというべきか湯船自体は、俺とマリンが二人入っても十分余裕なほど大きかった。
「早速話があるんだけどいい?」
マリンは早々に話を始める。マリンは一つ息を吸うと、
「私あなたのことが気になってるんだけど」
「...え?」
俺は突然の告白に思わず混乱していた。なんでこのタイミング?今どういう状況?いろいろ状況がカオスすぎて俺の頭はぐるぐると回っていた。
「サトルもどう思っているのか聞きたいんだけど」
マリンは淡々と話し続けていく。彼女の真剣な顔と話の内容がアンマッチすぎて、俺は「ちょっと待った」とマリンを右手で制する。残念ながら俺には好きな子がいるので、彼女の告白は断らなければならない。俺は一途な人間でありたいのだ。
「マリンの気持ちはうれしいが、俺には好きな子がいてだな...」
「はあ!?あんたの好きな子なんて興味ないわよ」
俺は突然の罵倒に思わず混乱していた。もしかして俺、とんでもない勘違いしてた?
「あたしが気になってるにはあんたの背中にある"それ"よ」
"それ"と言われても、人間の構造上自分の背中を見るというのは簡単なことじゃない。
「俺の背中にある何があるってんだよ?」
「あんた、まさか気づいてなかったの?」
マリンからは大きい溜息をハァとつかれる。そのままマリンは俺の背中を指さしたまま、
「あんたの背中にある刺青、つまりサトルのギフトについてよ」
俺の人生とは無関係だと思っていたこの世界の才能の結晶、ギフトについてのことだった。




