1-25章 一つ屋根の下
「さっきは悪かったわねペティー。私も少しおなかすいてて気が立ってたのよ。許してちょうだい」
「ううん。大丈夫だよ。私のほうこそ意地悪しちゃってごめんね」
ペティーをガジャの家まで送り届ける道中、俺たち3人は横一列で歩いて親睦を深めていた。ペティーも先ほどよりはマリンの苦手意識が和らいできたようだった
マリンのことをいろいろ聞いてみたが、どうやら俺とは状況が違うようだった。彼女は自分の名前以外ほとんど覚えていなかった。しかし、この世界での知識は俺よりもあるようで、魔法やギフトについても知っているようだった。その証拠に、
「私、一応ギフトを持っているのよ。ほらここ見て」
マリンは自分の右手で自分の左側の首あたりを指さす。この世界でのギフト持ちを初めて見たが、印象としては、その黒い紋章は刺青やタトゥーのような類のものだった。
「ま、あたしの場合これがどんなものかまだ分かんないんだけどね」
首に手を当てて、彼女はこう話していた。ギフトについても俺も詳しく知らないが、能力が何かは通常わからないのかもしれない。遺伝などが関係しているのであれば親のことを聞いてみればいいのだが、どうやらマリンは、家族のことはほとんど覚えていないようだった。
しばらく歩いていると、ガジャの家に着いた。ペティーが扉をノックすると、ガジャが出迎えてくれた。
「お疲れさん。ん...その子は...」
「あたしの名前はマリン。森で倒れているところをこの子たちに救われたの」
ガジャは一通り彼女の身なりを確認すると、顔のほうで視線が止まる。おそらく、首のタトゥーを見ているのだろう。
「お前さんのギフト、あまり見たことない形だが、どんなものなんだ」
「それが...私にもわからないのよ」
ガジャは怪訝そうに眉を顰める。
「わからない?ギフトを持っていて、そんなこと...」
ガジャは、腕を抱えてしばらく思案していたが、「まあいい」と一つ首を振ると、
「名前は...マリンといったか。その様子だと親はおらんじゃろう。しばらくはアンの家でお世話になった方がいいじゃろう」
「アンって誰?」
「サトルの母親代わりみたいなもんじゃ」
「あー、そういう」
俺はやり取りをボーっと聞いていたが、ハッと我に返る。
「今、アンの家で世話になるって言った!?ガジャ本気か!?」
俺は、ガジャに必死に抗議する。
「別にワシでもいいんじゃが、女の子にとっちゃ男親より女親のほうが何かと心配いらんじゃろ」
「俺の場合はアンだったけど...」
「それは、村の掟で保護したものがその子供の面倒を見るとかじゃなかったか。ワシもよく知らんが」
ポリポリとガジャは自分の髭を掻いている。俺も別に絶対に一緒に暮らすのが嫌なわけではないが、俺にも心の問題というのがありましてですね。
「あたしもそれで問題ないわ」
「ええ!?」
彼女は堂々とガジャにそう言っていた。マリンは俺のほうに振り返ると、
「これからよろしくね。サトル」
マリンは意味ありげにニッコリと俺に向かって笑った。そして俺は一つ屋根の下、二人の女性(一人は少女)と一緒に生活することが一瞬にして決まってしまったのだ。




