1-23章 赤い髪の少女
あのデートがあってから1か月俺は毎日のようにガジャの家に行ってはペティーとガジャの畑の世話をして、たまにペティーと魔法の練習をするのが日課になていた。相変わらずペティーは魔法の扱いが上手だったが攻撃系の魔法はあまり得意ではないらしい。彼女の性格的に、できるけどやらないといった方が正しいのかもしれない。攻撃系の魔法は森にいるイノシシやクマを倒すのによく使っている。クマはまだかなり苦労するけど、イノシシは頑張れば一人で狩ってこれるようになった。そして、これが一番うれしいことなのだが、
「それで、アンに寝癖を直さなかったら身だしなみくらい整える癖をつけなさい、っていつも怒られるんだよ」
「サトル君、男の子だからって身だしなみに気を抜いちゃダメだよ」
ペティーとはあの日以来かなり仲が良くなった。ガジャの家に行くぐらいしかやることがないのだが、その過程でペティーとの交流の機会も増え、年頃が近いのもあって今ではお互いに笑いあったり、冗談を言い合えるようになってきた。心なしかあった時より笑顔も増えてきた気がする。魔法の知識もガジャの子供なのもあり、その手の話もできて俺は本当に楽しかった。
そんなある日、いつものようにガジャの家に行くと、ガジャは家の前で何かの作業をしていた。
「ガジャおはよー。何やってるの」
「おうサトルか。ちょうど頼みたいことがあったんじゃ」
ガジャは、汗だくになりながら薪を割っていた。シャツを腕まくりして、額の汗をぬぐうと、
「森のほうでペティーと一緒にキノコを採ってきてほしんじゃ。今日の夕飯で使うからの。余った分は持って帰ってええぞ」
「ほんとに!?じゃあ今から行ってくるね」
「頼んだぞ」
それだけ言うとガジャはまた薪割りを再開した。俺はガジャの家に入り扉をノックしてペティーに声をかける。彼女はガジャから話を聞いていたのか大きいかごを二つ持って片方を俺に渡した。
「それじゃあ行こう」
俺達は、イ二チムの森に向かって歩き出した。あの森には一か月ぶりに行くことになる。あの森は俺が倒れていたり、ペティーと仲良くなったりといろいろなイベントがあった場所で、今度も何かあるのだろうか、と謎の期待をしてしまう。
「サトル君、随分服ボロボロになってきたね」
ペティーに指摘されて、俺は自分の服を見渡す。ガジャの手伝いや魔法の練習で使っている俺の服はかなりがたが来ていた。
「アンに縫ってもらったほうがいいね」
「うん。そうした方がいいと思うよ」
「あんま意識してなかったよ。教えてくれてありがとう」
「どういたしまして。ところで、サトル君」
彼女は俺のほうを向いていたずらっぽい笑みを浮かべる。
「好きな子とかいるの?」
一瞬俺の脳が質問の意味を受け付けずフリーズする。ん?今スキナコって聞いてきた?なにそれおいしいの?俺は自分のほうを軽くぺシっと叩くと努めて冷静に答える。
「イルワケナイジャナイカ」
好きな子はいない。ただし、気になっている子はいる。嘘ではないだろ?これで許してくれ神様。本人の前でこんな恥ずかしいこと言えるわけない。
「うそだー。サトル君絶対モテるでしょ」
「そんなことないよ。村には同年代の女の子はいないからね」
ペティーは村のほうに降りてこないからわからないかもしれないが、村には若い女性はほとんどいない。正確には数人いるがほとんど会話したことはない。なにせペティーという最高の話し相手を作ってしまった手前、完全に依存してしまっている。根暗には狭く深い交友関係しか作れないのだ。
「ふーん。そうなんだ...」
それだけ言うとペティーは黙り込んでしまった。普段はおとなしそうなペティーでも女の子だからなのかこの手の恋バナは好きなのだろうか。俺にはあまり理解できない部分なのだが。
「そうだ!」
ペティーは自分の持っているかごから見慣れたバスケットを出した。そうあの時のサンドイッチが入っていたバスケットだ。
「お!今日もペティーが昼ご飯作ってくれたの?」
「そう。今日は海辺で食べよ。風が気持ちいいから」
予想通り、そのバスケットにはペティーの手作り昼ご飯が入っているらしい。中身を聞いたところ「秘密。お昼になってからのお楽しみだね」とごまかされてしまった。彼女のそんなお願いをされたら俺は無論それを断るなどという選択肢は毛頭なかった。
しばらくすると俺たちは森につき、早速キノコ狩りを開始した。ペティーはどれが食べれるキノコかの判断がつくらしくテキパキとキノコを回収していって、2時間ほどでお互いの籠がいっぱいになるくらいのキノコを手に入れた。
「これくらい集めれば大丈夫だろう」
「そうだね。んっん~疲れたー」
ペティーは足元に籠を置くと片腕を上げて伸びをした。確かに俺も中腰でずっと作業をしていたので、かなり疲れが来ていた。
「そろそろお昼ご飯にしよう。俺おなか減ったよ」
「そしたら私についてきて。いいお昼ご飯のスポットを知ってるの」
ペティーは足元に置いた籠を拾い上げると、森のさらに奥深くつまり海側に向かって歩き出した。今日も今日とて天気が良く、小鳥のさえずりがあちらこちらで聞こえてくる。
「今日は頑張ってサトル君のために朝から頑張って作ったの喜んでくれると嬉しいな」
「もちろんだよ。例えおいしくなくても俺はペティーのご飯なら喜んで食べるよ」
「サトル君。そういう余計なことは女の子には言わない方がいいよ。好きな子にそんなこと言われたら傷ついちゃうよ」
「そ。そっかー。次からは気を付けるよ」
女の子とのコミュニケーションはまだまだ改良の余地がありそうだ。何が地雷で何が大丈夫なのかを見極めるのがさっぱりわからない。
「ちょっと待って、サトル君」
俺がボーっと考え事をしていると、ペティーが俺の胸のあたりまで腕を上げて前進を静止させる。
「誰か...人が倒れている?」
俺の位置からはその姿は見えないが、ペティーのところからだとどうやら人が倒れこんでいるらしい。状況的におれの場合とダブるが俺と同じような境遇の人なのだろうか?
「俺が様子を見てくるよ。ペティーはここで待ってて」
女の子であるペティーをここで待機させて、とりあえず俺は状況を確認するため、ペティーと位置を変わる。
「あれは...」
そこで、俺の目に移りこんだのは、ボロボロの衣服に身を包んだ赤い髪の女の子が草むらに横たわっているところだった。




