1-21章 イニチムの森
「今日はいい天気だね」
「そ、そうだなー」
空は雲一つない快晴。自分の真上に輝く太陽が俺たちを照らし、心地よい風が頬を撫でていて絶好のピクニック日和であった。
「...」
しかし、俺の心の中は積乱雲が立ち上る雨あられの曇天模様だった。普段口数が少ないペティーが頑張って話題を見つけては話しかけてくれるのだが、俺は「そうだねー」とか、「うんうん」と当たり障りのない返事しかできず、本当に申し訳ない気持ちになってきた。
(男として情けなさすぎる...何か、何か話題を...)
頭の中で話題をあれこれと反芻していると、前を歩くペティーがクルっと振り返る。短い髪を二つに結んだツインテールが肩でポンポンと跳ねる。
「サトル君ってどこから来た人なの?イニチムの森で倒れてたみたいだけど」
「ああ...」
あの森はイニチムの森っていうのか。あまり聞いたことがない単語だった。それに、出自のことを聞かれると、この世界ではそもそも日本やアメリカといった国々はないであろうなので、説明が少し難しくなる。
「海の向こうから来たんだよ!ほら、森の先は水平線が広がっていて島とか、大陸とかは見えないだろ。そのずっと先から俺は来たんだ!」
即興の作り話にしてはなかなかできた話だろう。自分でもうまくごまかせたことに内心ほっとする。
「んー」
ペティーは少し考えこむように下を向く。数秒たつと俺のほうに向きなおり、
「お父さんもそんなことを言っていた気がする。あの森には定期的に子供が流れ着くことがあるんだって」
言いながら、彼女は立ち止まると「ここらへんでいいかな」と、適当な木に腰を下ろす。
「お昼ご飯食べよ。今日のためにがんばって作ったんだ」
彼女は朝から持っていたバスケットを開けると、中からサンドイッチが出てきた。具はそれぞれ、卵、シーチキン、レタスとハムのものが2つずつ入っていた。
「これ作ってくれたのか?ありがとう!」
「ううん。遠慮なく食べて」
俺はペティーからバスケットを受け取ると、大好きなシーチキンを手に取り、一口食べた。
「おいしい...おいしいよこれ!」
グルメでもないのでこれのここがうまい!とかは言えないけど、とにかくパサつきもないし、食べやすいサンドイッチだった。
「ありがとう。嬉しい」
控えめに彼女はうなずき、そのあとは二人で仲良く各一個ずつ食べた。食べ終わった後は、彼女の提案で近くに咲いているお花を見たり、雑談しながら2人で過ごした。彼女は花に関しての知識がすごく、俺はちんぷんかんぷんだったが、花を見つけて俺にニッコリ微笑み返してくれるだけで俺はドキドキして無意識に体が火照ってしまった。あっという間に時間が過ぎると、
「そろそろ帰ろっか」
彼女は立ち上がり、寄りかかっていた木々から背中を離す。俺もつられて立ち上がると来た道を引き返すように二人並んで歩き始めた。
「今日は誘ってくれてありがと。めちゃくちゃ楽しかったよ」
「そう?私も楽しかったよ」
暗くなってきて相手の表情はわからないが、フフフと笑い声が隣から聞こえる。現世では研究者として社畜のように働いていたから、雄大な森の中で美少女とまったりと過ごすなんて微塵も経験してこなかったことだからだ。今日の思い出は一生忘れることはないだろう。
「ところでサトル君」
「ん?どうしたの?」
いつもの口調でペティーが聞いてくる。暗闇でペティーに顔がこちらに向いたことだけがわかる。
「サトル君はギフトについてどう思っている?」
唐突に、初めて聞かされた単語に俺は困惑していた。




