1-19章 飛躍
ペティーとの合同訓練が始まって一か月がたとうとしていた。ガジャの熱心な魔法指導やペティーの助けがありながら、俺はみるみるうちに上達していった。
「うっし!」
今まで引っかかていったトラップなどにも、引っかかることはなくなりペティーと並走できるほど魔法の扱いが上達してきた。ルートを省略できる風の使い方や、トラップのあぶりだし方などは、ペティーの見様見真似と、ガジャの指南で何とかモノにしてきた。なぜ、魔法のあつかっ方をペティーから教わらないかというと、俺が足を取られないように足場を安定させれるような魔法はあるかと聞いた際、ペティーは、
「タイミングとかはなんとなく。わからない?」
と本当に分からないの?といった感じで聞いてくるので、俺もペティーから魔法のことを聞くことは渋々諦めた。彼女の魔法の才能はどうやら治癒魔法に限った話ではなかったらしい。
「ペティーの魔法全般の才能は母親譲りじゃよ」
とはいつの日かガジャがペティーのことについて話していたことだ。もともと口数が少ないのもあって、教えること自体あまり得意ではないのかもしれない。それでも、毎日記録を更新していく俺に対しては、
「おめでとう。うまくなってきたね」
と毎回声をかけてくれたので、俺は全然ペティーのことは嫌いにならなかった。むしろ、彼女の魔法の使い方に関しては日々学ぶべきことが多かった。そして今日も俺はペティーと一緒に合同訓練やっている。今までより体も軽く、魔法の扱いもよどみなくできている。
(今日は10分切れそうか?)
心の中で思った雑念を一瞬で振り払うと、足を取られないように足元に風を起こしながらぐんぐん山を登っていく。ペティーの小さい背中に必死に食らいつきつつ、呼吸を整える。ここ1か月の訓練で情けないことに彼女のことを抜かしたことは一度もない。ゴールはもう目前まで迫っていた。
(追い越せる!)
俺は、一気に魔法を放出するとギアを一気に上げて彼女と並ぶ。彼女は一瞬だけこちらに顔を向けたが、すぐに顔を正面に戻す。彼女も心なしかギアを上げて俺に負けじとスピードを上げる。ゴールまであと20mほどになる。
「ッッッ!!」
ゴールまでの一本道を一気に駆け上がり、さあっと視界が明るくなる。
「おわっ!?」
俺は足元がふらついて顔面から地面にダイブする。
「おおん、どうしたそんなに慌てて。クソでも漏れそうだったのか?」
後ろからガジャがのそのそと俺に近寄ってくると、俺に手を伸ばして立ち上がらせた。ペティーの方はちゃんと止まれたのか、ゆっくりと俺とガジャの方に歩いてきた。
「どっちが速かった?」
俺はガジャの方を見ると、はて?と首をかしげながら、
「どっちが速かったまでは見てなかったな。どっちも互角ぐらいじゃったな」
あっけらかんとした様子で、ガジャはポリポリと頭を搔いている。俺はそれだけ聞くとがっくりとうなだれた。
「しかし...」
ガジャは俯いている俺を気にしている様子もなく、
「タイムの方は9分48秒じゃ。よく頑張ったな。合格じゃ」
え...合格?今合格といったのか?確かに、最後の方はペティーとの勝負になってタイムのことなどすっかり忘れていたが、ついに山登りトライアルが10分を切り、念願の目標が達成された。
「よ...」
俺は目の前でこぶしを突き上げると、
「よっしゃー!」
声高らかに合格の喜びを叫んだ。ここ2か月ほど魔法の特訓に明け暮れていたけれど、ついに目標を達成することができた。
「サトル君。おめでとう。よく頑張ったね」
目の前でペティーも俺にねぎらいの言葉をかけてくれる。俺は目頭にあふれ出てくる涙を必死に我慢しながら、
「うん。ありがとう...君のおかげでここまで頑張ってこれたよ」
「ううん。私は何もしてないよ。サトル君の頑張りがあったからだよ」
彼女は両手を自分の胸にあてて俺の方を見つめ返している。まるで彼女の優しく黄色い双眸が俺の目を深淵までのぞき込んで言うようだ。数秒見つめ合った後、彼女はいきなり思い出したかのようにハッとガジャの方に向き直ると、
「そうだ!練習も合格したことだし、明日はサトル君と森の方に遊びに行ってもいい?」
ガジャは特に悩んだ様子もなく、首を縦に振り二つ返事でそれを承諾した。
「じゃあ明日、正午にお父さんのうちまで来て。待ってるね」
それだけ告げると、彼女は足早に山を下って行った。
「ペティーは早くに両親を亡くして、同年代の子と遊ぶこともなく、わしがここまで育ててきた。じゃから同年代のお主と遊ぶのを心待ちにしてたんじゃ。サトルのこともあるからこの訓練が合格したらという条件付きでな」
俺の肩にそっと手をおいたガジャはこれまで見たどんな顔よりも優しく、しかし、どこか悲しげな表情をしていた。
「俺も...」
俺は勇気を振り絞って、ガジャを見上げる。彼は俺の真剣な雰囲気を感じ取ったのか片膝を折り俺と同じ目線になる。
「俺もここにきてペティーが最初の友達だ。だから一生俺大切にするよ!!」
ガジャは驚いたように目を見開いていた。俺も言った直後にこの言い回しマズった...と思ったが、ガジャはフッと少しだけ微笑を作ると、
「そうか...ペティーのことは任せたぞ。わしももう...長くないかも知れんからな」
それだけ告げると、ガジャは立ち上がると俺の横を通り過ぎて山を下っていく。俺もその背中に不安を抱きつつ、彼と一緒に山を下りて行った。




