1-18章 臆病というエッセンス
ペティーとの山登りタイムトライアルの訓練は自分一人の時よりも難航すると思われていた。理由は単純で、こんなひ弱な女の子をつれて山登りなど到底不可能だと思っていたからだ。しかし、
「そこ、危ない」
「おわぁ!?」
俺は慌てて彼女の静止の声を聞きストップする。彼女が俺の一歩手前を足でポンとつつくとそこは落とし穴だった。ペティーは先ほどから山中に仕掛けられているトラップを俺が踏む直前で警告しては最適な道を指示してくれる。また、登るのが難しい崖なども、
「ハッ」
手から風を下に噴射することで自分の体を浮かせて崖もすいすい上っていく。わざわざ難しいコースを選んで進む必要などないのだ。これではまるで、
「俺のほうが足を引っ張てるじゃねーか」
自嘲気味に上ずった声を上げながら俺は彼女の背中を追う。俺にはまだあんな魔法を使うことはできない。山に生えている木々がざわざわと音を立てる。
「せめて気合だけでも負けるわけにはいかないんだ」
不安定な足元に気を付けながら、必死に山を進んでいくがペティーが作る風とはちがう自然の風が俺を襲う。
「うわー!?」
大した風でもなかったのに、俺は足を取られ切り立って横が斜面になっている真っ逆さまに落ちていく。くそ、あんなひ弱な女の子がこの訓練を頑張っているのに。俺ときたらこんなところで。
「チキショー...」
俺は、受け身も取れずに体のあちこちを打ち付けながら落ちていく。後ろのほうで俺を呼ぶ声が聞こえた気がしたが、俺はそこでかすかにつないでいた意識の糸がプツリと途切れた。
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目が覚めると、俺はいつものゴール地点に横たわっていた。少し首を右に傾けると、ガジャがいつものように本を読んでいた。
「ん...やっと起きたか」
よっこらせ、と重い腰を上げてガジャは切り株から腰を上げる。ふと気になって空を見上げるともう夕方になっていたらしい。そうなるとざっと5時間ほど寝ていたことになるのだろうか
「おはよう。大丈夫だった?」
突如、上から声が聞こえて俺は慌てて頭を逸らした。俺が後ずさりしたその正面には、ペティーがちょこんと正座をして座っていた。ってことは、ペティーは今俺のことを...
「...」
「私の治癒魔法、ダメだった?」
「い、いやそいうことじゃないんだ」
彼女が不安そうな目で俺のことを見てくるから慌ててそう訂正した。
「君が治療してくれたの?ありがとう」
「?ケガしてたら直すのは当然でしょ?」
彼女は不思議そうに俺の顔を覗き込んでいるが、まあ謝意は受け取ってくれているのだろうと考え、俺はガジャのほうに向きなおって、
「俺、崖から落ちてそのあとの記憶がないんだけど...」
「もう全部ペティーから聞いておる。ワシのところに来たときは、気は失っていたが外傷のほうはほとんどなかった。ペティーはワシより優れた治癒魔法使いやからな」
それを聞いて俺は改めて先ほどからみじんも姿勢を崩さない彼女のことを見た。ガジャは素人目で見ても優れた魔法使いだった。そのガジャよりも治癒魔法が優れているなんて。
「治癒魔法は才能9割と呼ばれる世界じゃからな。ワシはそっちのほうはかっらきしなんじゃ」
俺の考えを見透かしたようにガジャは言う。となるとあの身のこなしに加えて、治癒魔法も一級品なのか。
「やっぱ俺って才能ないのかな...」
「そんなことはない」
俺が自己嫌悪しているところに間髪入れずに彼女が割り込んでくる。
「サトル君は魔法はあんまり上手じゃないけど必死に私についてきてた。きっとすぐにうまくなれる」
彼女は俺に慰めの言葉を投げかけてくれた。魔法の才能は彼女目線でもないようだけれど。
「だから一緒にがんばろ。私も頑張るから」
ペティーは俺の右手を両手で握って、顔を目と鼻の先まで近づけてきた。女の子にこんな間近まで近づかれるのはこの世界では初めてだった。
「う、うん。がんばるよ」
俺は精一杯の笑顔で彼女に笑いかけると彼女も笑い返してくれた。彼女の笑顔を始めてみたけれど、とてもかわいらしい笑顔だった。
「さあ、帰りましょ。村のみんなも待ってるでしょ」
彼女はササっとスカートの葉っぱを払いのけるとスタスタと歩きだした。俺もその後ろを慌ててついていった。ふと振り返るとガジャはすでにそこにはいなかった。あんな情けない場面を見られなくて本当に良かった...




