1-17章 邂逅
この山登りタイムトライアルの特訓が始まってから1週間ほどが経過した。初日であれだけよい感覚で魔法を使えたのだから、もちろん目標タイムを切ることができて...
「15分37秒。あともうちょっとじゃな。ほれもう一回じゃ」
いるわけもなくまだまだこの山奥での特訓は続いていた。最高タイムは15分をギリギリ切ったくらいで、10分というタイムにあと一歩届かないといったところだった。
「くそ、あともうちょっとなのに」
歯がゆいところで壁にぶつかってしまい、俺は忸怩たる思いで毎回の特訓の日々を過ごしていた。それでも、タイムが縮まることはなく、逆にある日を境にタイムが伸びて行ってしまった。いわゆるスランプというやつだろう。
「チ、チクショー...」
俺は連日の特訓で体がボロボロだった。毎日毎日同じことの繰り返しで、気が滅入るような思いで日々を過ごしていた。
「後何か一つ、きっかけがあれば...」
今日も相も変わらずガジャと一緒に特訓している山道への道中で作戦を練っていた。あの日からの集合場所はここになって朝方くらいから始まり、夕方くらいに特訓が終わる。いつものように集合場所に向かうとすでにガジャは来ていた。
「おはよう。早速だが今日は一人紹介したい子がおる」
本当に唐突にガジャが言ってきたのは紹介したい子がいる、と言ったガジャの雰囲気は今までのどんな彼よりも印象が違って見えた。普段よりも彼の言動は慎重そのものだった。
「こっちに来なさい」
そう手招きすると木の陰からひょっこりと小さな人影が現れる。誰かと思って顔を覗こうとするとその人影は急いでガジャの後ろに隠れる。
「ほら、こわがるな。サトルはいいやつだと毎日話してやっとるじゃろ」
口調こそいつもと一緒だが彼は今まで見たことないほどやさしい雰囲気に包みこまれていた。その人影はおそるおそるガジャの後ろから顔を見せた。
「こ...こんにちは」
消え入りそうな声であいさつしたのは俺と同じくらいか少し年下くらいの小さな女の子だった。黄色い髪のショートボブに緑色の髪飾りのようなものをつけていて、目は青く透き通った眼をしているが全体的な印象が暗めなせいか、自信のなさがありありと伝わってきた。
「俺はサトル。とりあえずよろしく」
そういって、手を指し伸ばすと彼女はどういうことか一歩また一歩と後ずさりしてしまった。
「...」
彼女は俺を言葉の通じない獣でも見ているかのようなおびえた目をしていた。俺は何かしてしまったのかと不安になるようなおびえようである。一応、このことは初対面のはずなのだけれど。
「えーっと、名前を聞いてもいいかな?」
俺は彼女との距離を詰めずに、なるべく気を使って彼女に話しかける。彼女は助けを求めるようにガジャのほうを見る。
「大丈夫じゃよ。自分の名前を言ってみぃ」
またしても、ガジャは彼女を優しく諭す。彼女は勇気を振り絞って俺のほうを向き、何度か深呼吸をしながら、
「ペ、ペティー、私の名前はペティーです...」
ギリギリ聞き取れる声量でいうと、彼女はまたガジャの後ろの隠れてしまう。
「この子の名前はペティー。一応表向きでは私の娘ということになっている」
表向きでは、ということに少し引っかかったが聞かないことにした。彼女の極度の怯え様からかなりセンシティブな過去があったのだろうと、容易にに考えることができた。
「今日からはペティーと一緒にこの訓練をやってもらう。」
「え!?」
俺はいきなりそういわれてあっけにとられる。一人でも大変なのに二人でこの訓練に挑むとでもいうのか。
「やり方はペティーにも教えてるから心配はないぞ。それじゃあスタート」
いつもより雑に特訓の朝がスタートする。いつも通り彼は一瞬で消え去り、この場所には俺とペティーの二人になる。
「えっと、ペティー...ちゃん。師匠からいつも俺がやってることは聞いてると思うけど...」
「ペティーでいい」
彼女は早口に、そして食い気味に俺に詰め寄ってくる。距離感はちぐはぐな子だな、とはこの時思った。
「とりあえず先を急ごう。師匠が待ってるだろうし」
「うん...」
彼女はおとなしくうなずくと俺の後ろにくっついて歩いてきた。本当にこの子と一緒にこの課題をクリアできるのだろうか。この時の俺は本当に先が思いやられる思いだった。




