1-15章 壁
「ハァ...ハァ...これ...冗談だよなぁ...」
走り始めて5分もかからなかった。俺は近くの木の切り株に腰かけているところだった。ただでさえ体力のない俺がこんな山奥を10分で上るなんてとたん無理な話だった。それに、
「多分俺より体力のあるやつがやってもかなりきついよな」
手にした魔法石と対をなす魔法石の反応からそんな風に思う。魔法石の反応は確実に近づいてきているように感じるが、まだまだ遠くに反応があった。同年代の体力のある子供でもこの山を10分で登りきるのはほぼ不可能だろう。
「でも、とりあえず登り切って見せよう」
俺は遠くにある魔法石を目指すため重い腰を上げる。最初からできるわけないんだから着実に、一歩ずつ地道に進んでいこう。
「それにしても、」
俺は昼間なのに暗い山奥の周りを見渡しながら先に進む。俺がこの道を10分で行くのは不可能だと思った理由はなにも体力だけの問題ではない。それは、
「くそ、まただ」
木のつるに足を引っかけて俺はなんとか木のつるをほどこうとする。さっきから、いきなり落とし穴に落っこちたり動物に襲われたり、突然水が降ってきたりと散々な目にあっている。もちろんこれは自然現象などではなく、
「おそらく、ガジャさんが仕込んだんだろうな」
俺はため息交じりにつぶやく。思っていた魔法の訓練とは全く違う現実をたたきつけられ少し萎えてしまったが何か意味があることなのだろうと、気合で自分の心を奮い立たせる。
「あんな啖呵を切ったからには、こんなところでめげてられない」
俺は、やっとの思いで足に絡まった木のつるをほどくと一呼吸入れて先を急いだ。
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「やっと帰ってきたか。暇すぎて家に戻って本をもって読んでたところじゃ」
傷だらけの泥だらけの俺を見てガジャが放った一言目がこれであった。
「時間は...30分強といったところか。まずまずじゃな」
目標タイムには到底及ばないタイムで俺は大いに肩を落とす。
「あのーガジャさん...」
これはさすがに無理があるのでは、と言いかけたところでガジャが俺を片手で制する。
「わしのことは師匠と呼ぶんじゃ」
そういってニッと笑顔を向けてくる。確かに今の俺とガジャの関係はまさしく弟子と師匠のそれだった。
「それじゃあ師匠」
俺は改めてガジャを師匠と言い直す。彼は持っていた本にしおりを挟んでこちらを向く。
「この道を10分で行くのは難しくないですか?」
「まあ、サトルのやり方では今のワシでも無理じゃろうな」
あっさりとガジャは言ってのけたが、俺は顎をあんぐりと開けて呆然としている。
「誰がただの体力勝負といったんじゃ。これは"魔法師"になるための訓練じゃぞ。」
そういわれて俺は自分が勘違いをしていたことに気づく。ガジャが片手をくるんと回す。
「どんな方法でもいいからここまで10分で登ってくるんじゃ。もちろん魔法でも何でも使ってな」
そういって彼は俺の肩に触れる。彼は不敵に笑うと、
「ここまでの復習じゃ。いったん場所を変えるぞ」
そういうと、彼は目を閉じて黙り込んでしまった。そして、ガジャは俺の背後に向かって右腕を振るう。
「!?」
そして、次気づいた瞬間には、俺は最初の森の入り口に戻っていたのだった。




