2-47章 囚われの姫
険しい上り坂をぐんぐんと上り進めていく。ちょっとした段差に上るのを苦戦しているマリンに俺は手を差し伸べる。みんなラムサー森林の熱さにやられながらも懸命に一歩を歩んでいる。試験開始から何かと人探しをしているが、この湿気の多い空間の移動はなかなか慣れない。
「しっかし手掛かりがないな。クリッピーがいれば俺たちを見つけられるはずなんだろ?」
「そのはずなんだがな」
もう別れてから2時間以上経過しているが、いまだにリリーネを見つけることはできない。むしろ、クリッピーがいる以上、彼女らの方から見つけてくれる算段だったのだが、いまだに合流の兆しは見えてこない。リリーネの身に何かあったのか、それとも...
「ん...?」
先頭を歩くダンクが目の前に違和感を感じ歩みを止める。俺はダンクにぶつかりそうになって慌てて立ち留まり、俺の後ろを歩くマリンも急に立ち止り、あわや2次被害になりそうになる。
「ちょっと危ないじゃない!いきなり止まって...」
「静かにしろ」
前を向いたまま鋭くダンクにそういわれマリンも押し黙る。ダンクの長身で前が見えないため、俺は体を半分ずらして横から前の状況を見る。前方の草むらでは何かがごそごそとうごめいていて、不気味な感じがした。魔物の類かもしれないため、俺たちも少し身構えた。すると次の瞬間、うごめいていた何かが俺たちの方に襲い掛かってくる。俺はすぐさまそれに魔法を放とうとしたが、
「待て!!」
ダンクに強く制止され、俺はとっさに魔力の放出をやめる。そして"それ"はダンクの胸元に思いっきり飛び込んできた。
「これは...クリッピー?」
一瞬魔物と見間違えそうになった生物はリリーネのギフトの源でいつも連れ添って歩いていたクリッピーだった。自分の口元に魔力人形を加え、ダンクにじゃれるように自分の顔を押し付けている。
「クリッピー、お前、リリーネはどうしたんだ?」
それだけに、クリッピーが一匹で俺たちの前に現れたのが何より不自然だった。リリーネが俺たちを驚かせるためにわざわざこんなことをする性格だとは到底思えない。となると考えられる選択肢は一つしか思いつかなかった。
「まさか、リリーネとはぐれたのか?」
「ワーウ」
クリッピーはおそらく肯定するように俺に向けて鳴いた。むしろ、俺は自分の予想がそれで終わるだけならまだ嬉しかった。
「何ではぐれたわけ?迷子になったり、ケガで動けなくなったとしてもリリーネがクリッピーを手放すのは悪手なんじゃないの?」
「そう、クリッピーがいればそもそも迷子になるわけないし、怪我したとしても今の俺たちみたいに直に探しに来てくれることを考えれば、クリッピーを自分の周りにおいておくのが一番安全なはず」
「それなのにリリーネはクリッピーに魔力人形を預けて、自分の身からクリッピーをわざわざ引きはがした。ってことはつまり...」
俺とダンクはお互いに右手を顎に当てて考え込む。唯一マリンだけがこの状況をいまいち読み切れていないようだった。
「ダンク」
「なんだ」
「多分俺たちの考えてることって大体同じだよな」
「だとしたら俺たちも早めに動いた方がいいな」
「そうだよな」
二人で勝手に意気投合して、マリンは完全に置いてけぼりを食らっていた。
「ちょっと、二人で納得してないでよ。リリーネはいったい何でクリッピーを自分の身から離したのよ?」
俺とダンクは二人で顔を見合わせ、二人同時に言った。
「「リリーネは誰かに襲われて、魔力人形だけを守るためにクリッピーを一匹で逃がした可能性が高い」」




