2-44章 結果論
「よし、これくらいでいだろう」
しばらく息をひそめてあたりを彷徨ってから、肩を貸していたルークが近くに俺を横たわらせる。
「今、俺はどういうわけかあるやつに追われているんだ。割と試験が始まってすぐからだな。あの手この手で撒いてはいたんだが、ちょうどいいところにお前を見つけてあの魔物を当てるついでにお前を助けたわけだ」
今も魔物はどえらい咆哮をあげながら誰かと戦闘を行っているのだろう。わずかな振動が肌に伝わってくる。
「そいつは...あんな魔物と戦って死なないのか...?」
「それはわからん。だが、破天荒な奴なのには違いない。三日三晩俺を追ってきている奴だからな。普通の精神力じゃない」
話を聞く感じ、本当に文字通り三日三晩追われている口ぶりに、俺はルークに同情の意を示した。しかし、さっきまでの傷がぶり返してきて、俺はとっさに特に痛む右肩の傷口を抑える。
「大丈夫か?止血するか?」
「いや、これくらい俺一人で...」
「あんま無茶すんな。貸してみろ」
俺はリュックから出した布切れをルークに渡した。手早く俺の右肩に巻き付けるように布を当てながらルークは訊ねる。
「ペティーは、あれからどうなった」
「...」
どこかでは聞かれると薄々感じていた。ペティーの具合を確かめるために、ルークとの再会を惜しみながらも俺は彼女らのもとに向かった。あまりこのことは思い出したくないが、俺は素直にペティーが昨日の夜に魔法石を使って脱落したことをルークに伝える。俺の話を聞き終え、ルークは沈鬱な表情を浮かべる。
「そうか...それは残念だったな」
ルークは俺の右肩に包帯を結び終える。ちょっと閉め方がきつく、傷跡が少しだけ布の圧迫で痛む。
「...なんだよ。もっとぼろくそ言ってくれたっていいんだぜ」
ルークはいつもの好戦的で冷淡な瞳を抑え、しかし表情を変えずに言い放った。
「いや、お前が簡単にペティーを見捨てるはずがない。お前はそういうやつだ」
ルークの目に俺はどう映っているのだろうか。仲間思いのいいやつ、情が深くて誰でも助けるようなやつ、そんなふうに映っているのだろか。実際俺は好きな女一人守れなかったただの負け犬なのに。
「でも、結果的にペティーは脱落する羽目になった。俺がどう思っていようがペティーを助けてあげられなかったことには変わりない」
俺の言葉にルークはがっくりと肩を落とした。
「サトル、お前全部ひとりで抱え込みすぎだよ」
ルークはその場で胡坐をかいて、背の小さい細い気を背に腕を後ろで組んだ。
「ペティーが体調不良になった紛れもなくあいつの責任だし、それを助けられなくて誰もお前を責める奴はいない。助けるのが遅れたのも転移の術でランダムに飛ばされたからでこれもお前のせいじゃない」
「いやでも、ペティーの体調不良は俺のせいで...」
瞬間、俺の頬をルークの攻撃魔法がかすめていった。俺の頬からはうっすらと血が流れてくる。
「そんなのはお前の主観的な意見だ。客観的に見てお前に全く落ち度はない。それなのにお前は自分があの時こうすればとか、あの時こういう選択をしてればよかったとかの結果論で全部考えてるんじゃないのか?」
今のルークの言葉を俺は客観的に見ることはできない。ペティーの脱落の現場に居合わせた俺は紛れもない当事者であり、主観をすべて排除して物事を考えるなんてできやしない。
「自分一人ですべて丸く収めるなんて、虫が良すぎるんじゃないか?」
いつの日か、誰かに同じよなことを言われた気がする。それが退屈な日々を送っていた学生時代か、はたまた研究に没頭していた研究員時代だったか全く思い出せない。でも、その言葉に俺は少しだけ価値観を変えられたことを俺は思い出した。
「お前にそんなことを言われる何て、俺もまだまだだな」
「一人で全部解決しようとしてた過去の俺への戒めだ。ありがたく受け取れ」
そうだ。過去の選択を何度も振り返ったって結果が覆ることなんて絶対にない。ペティーは脱落したけど、それを全部俺が悪いと抱え込んでると知ったら、少しだけ怒られるかもしれない。今の俺にはマリンやルーク、ダンクやリリーネなどのたくさんの頼れる味方もいる。
「もっと仲間を信頼しろ。お前は一人で戦っているんじゃない」
今まで孤高で戦っていたルークからそんな言葉を聞けるなんて、俺は自分の負傷も忘れて一人で静かに笑った。




