2-42章 ぬかるみトラップ
「俺が出たら死角を突いてクリッピーで魔力人形を奪取してくれ。あとは計画通りに」
「ええ」
俺はじりじりと魔物との距離を詰めつつリリーネにそう伝える。作戦が始まれば、お互い会話をする余裕はもうない。あとはお互いがベストを尽くす。ただそれだけの戦い。
「それじゃあいくぞ」
俺は思い切って魔物の前に飛び出していく。魔物は俺にゆっくりと標準を合わせると、鼓膜が破れんばかりに咆哮を放つ。俺は精一杯耳を閉じ、魔物の圧に負けないようにする。目線の端でリリーネとクリッピーが魔物の後ろを取っているのがわかる。
"今この瞬間、リリーネたちに注意を向けさせるわけにはいかない"
俺は魔物の胴体にめがけて魔法を放った。目の前の魔物は何かしたか?と言わんばかりの目を向け、鋭い眼光が俺の方に向く。
「こっちだ!俺にかかってこい!」
俺は魔物と反対方向に背を向ける。魔物は攻撃した相手を逃がすまいと全速力で追ってくる。
「これでいい...」
俺は魔物の放つ炎のブレスをうまくいなしつつ、ラムサー森林を駆け抜ける。炎に焼かれた木々が俺の後ろでバッタバッタと倒れる音が聞こえてくる。
"動きは直線的。だけど..."
単純な運動性能で天と地ほどの差がある分、単純な魔力量の勝負では分が悪い。早期決着で相手を無力化するしかない。
"でも、もうちょっと距離が欲しい"
リリーネとクリッピーとはまだ50メートルほどしか距離がない。安全距離を確保するにはもう少し俺絵がひきつける必要がある。
「これで!!」
俺はいくつもの魔力の球を作り出し、魔物に波状攻撃を繰り出す。しかし、魔物は全くダメージを負った様子を見せずそのまま俺に向かってきている。
「これじゃあダメか...」
魔力での足止めは俺が逆立ちしたとしてもできたものじゃない。それだけ1日目にあった魔物とタメを張るほどの強度があの魔物にはある。しかし、前回との違いは魔物との遭遇の前に作戦を考える猶予があったところだ。
「これくらいでいい」
十分距離を取れたところで俺は地面に向かって集中的に魔力を叩きこむ。ぬかるんだ地面には俺みたいな魔法師でも簡単に大きな穴を作ることができる。魔物の速さは思ったよりも遅く、準備に十分時間を割くことができる。
「グワァァァァーーーー!!!」
俺に追いついた魔物は大きな雄たけびを上げる。ダメージは負ってはいないものの、魔力を撃ち込まれて相当苛ついてきてはいるはずだ。
「ほら、もっとこっちにこい!」
俺は魔物をさらに自分の方向に引き付ける。魔物は今までにない素早い動きで俺に爪を向けてくる。しかし、魔物の爪は俺の鼻先をかすめ取り、踏み込んだ拍子に俺が作った「ぬかるみトラップ」に魔物はうまくはまった。
「ッシャオラ!!」
渾身のトラップにうまく魔物がはまり、つい俺はガッツポーズをとった。どっぷりと右足がぬかるみにはまっており魔物もうまく抜け出せていない。この隙に俺も逃げ...
「おい、マジか」
ようとしたのもつかの間、自分の後ろの大きな風圧を感じ振り返る。するとそこには大きな翼をはやした魔物がぬかるみから脱し、獲物に食らいつかんと目を爛々と輝かせていた。俺が回避行動をすると同時に俺の横を魔物の顔が通過する。作戦は失敗。危険と死を肌で感じた俺は一目散にその場から逃げ出した。




