2-41章 囮作戦
「ヴォルル...ヴゥゥゥ...」
森を歩きながら10分ほどたち、クリッピーは俺たちに何かを訴え始めた。おそらく、この近くに魔力人形があるのかもしれない。しかし、それよりも厄介な問題が俺った位の目の前には立ちはだかっていた。
「あんなデカい魔物がうろついているなんて」
魔力人形の波長がかき消されるほどの膨大な魔力をあの魔物は発してきている。その魔物はこのあたりをその大木のように太い足でさまよい続けていた。
「クリッピー、魔力人形はこのあたりにある?」
リリーネは目の前の魔物に警戒心を示し続けているクリッピーにそう訊ねる。
「ヴァルル...」
クリッピーはリリーネの言っていることを理解しているのだろうか、リリーネの言葉に尻尾を振っている。リリーネもそれに頷き返し、今度は一緒に隠れて様子をうかがっている俺の方を向く。
「クリッピーはこのあたりに魔力人形があると言っているわ。間違いはないはずよ」
「そうだとしてもあの魔物が邪魔すぎる。まずはあれをどうにかしないとな」
俺はリリーネに対して右手で二つ指を立てる。
「あいつをどうにかする最も簡単な方法。それはあの魔物を倒すことだ。俺と一緒で倒すことができると思うか?」
リリーネは俺の質問に対してしばらく吟味している。俺の戦力と自分の戦力で分がいい勝負ができるか、計算しているのだろうか。
「昨日のあなたのあの身のこなしであれば共闘すればできないこともないわね」
「...」
俺は二人でアの魔物には勝つことはできない、という言葉を想定して会話を組み立てようとしたのに最初の一歩でつまずき、早急に頭の中を整理する。まず、昨日のマリンとのいざこざの時の俺を参考にしてほしくないこと。そして、俺の本来の戦闘力はあの魔物に手も足も出ないこと。この二つを俺は素直にリリーネに伝える。
「それじゃあ、昨日のあなたのあの身のこなしは何だったたの?」
「あれは何か、なんとなく精神が集中しててできたんだよ。本来の俺はもっと弱い」
「それならあの魔物に勝てないじゃない。どうするつもり?」
「それが二つ目の作戦だ」
やっとの思いで軌道修正して俺はリリーネに二つ目の作戦を伝える。
「俺がおとりになってあの魔物と対峙する。リリーネさんはその隙にクリッピーに魔力人形を取ってきてもらってここを離れてくれ」
「どうやってあなたと合流するの?あの魔物をいなす算段はできてるの?」
矢継ぎ早にリリーネに質問を飛ばされるが、俺は慌てずにリリーネの質問に丁寧に答える。
「合流は簡単だ。クリッピーが俺の匂いを覚えてくれればクリッピーを経由してリリーネさんと俺は合流できるはずだ。俺からは合流はできないけどね。そしてあの魔物を倒す算段はある程度できている。そこは任せてほしい」
俺の言葉にリリーネは半信半疑のようだったがこれよりいい作戦が思いつかない以上、この作戦を決行するほかないだろう。俺もあの魔物にある程度対峙する以上、覚悟を決めなければならない。
「わかったわ。あなたに任せる。でも無茶だけはしないでね」
「それから魔力人形を取ったらできるだけ早くマリンたちと合流してほしい。他の受検者が魔力人形に群がってくる可能性がある。それができないようだったら一人で浜辺に向かってチップと魔力人形を交換してきてほしい。とにかく長時間魔力人形を持ったまま一人でいてはいけない。いい?」
「わかったわ。それでもあなたの方が危険であることには変わりない。何かあったらすぐに逃げるのよ」
リリーネも俺もお互いの言葉をかみしめ、目の前を悠々自適に歩いている魔物を見据える。作戦通りに行けば魔力人形を手に入れることができる。不安はない。なぜなら、勝つことだけがすべてを手に入れることじゃないと俺は知っているからだ。




