2-36章 心の納得
マリンは俺と目が合うと、気まずいのかすぐに目をそらした。遠くの方で燃えている炎がダンクとリリーネを照らしている。
「さっきは大丈夫だったか?」
「...え?」
マリンは虚を突かれたように拍子の抜けた反応をした。俺は真っ黒な澄み渡る夜空をなんとなく見上げた。
「覚えてないか?さっきのマリン、俺らのことを殺そうとしてたんだぜ?」
さっきの暴走状態がマリンにとってどういう風に記憶に残っているのかはわからないが、マリンの無意識化で起こったものならば、暴発を防ぐためにも改善策を練る必要がある。それに、ペティーのリタイアに関するメンタルケアも行う必要がある。
「...さっきのこと...あっちのデカいやつと言い合いになって、そこからの記憶はないわ。でも、そういうことなのね...」
「何か心当たりがあるの?」
俺はマリンに優しくと問いかける。マリンはごそごそと動きながら自分で態勢を崩して体育座りをする。
「多分それはあたしのギフトだと思う。記憶がいつもないから多分そうだと思ってるだけだけど。でも、まさか見られちゃったとわね...」
あれがマリンのギフトだとは俺も初耳だった。思えばマリンに初めて会った時から、首にあったタトゥーからギフトはあるとわかってたけど、それについて聞こうとは思ってなかった。無意識に自分から言ってくれるのを待ってたのかもしれない。
「...失望した?」
マリンはおびえたように俺に尋ねてくる。
「なんで?むしろめちゃくちゃ嬉しかった。マリンの意外な一面が見れて」
「な!?」
マリンは暗闇の中でもわかるくらい赤面をして、自分の膝に顔をうずめた。確かに周りに被害が出たから焦りはしたが、結果的にみんな怪我もせずに危機を脱することができた。むしろ、マリンの秘密をこんなところで知れて得をしたまである気分だった。マリンは仕切り直すように別の話題を出す。
「ところで...ペティーはどうなったの?」
この話をマリンにするのは少し気が重かった。マリンからあの時感じた直感を除けば、俺はほぼ独断でペティーのリタイアを決めてしまった。直前までそれに猛反対をしていたマリンがこれを聞いてどう反応するかを想像するのかが怖かった。しかし、ここで嘘を言ってごまかすのも無理がある。
「ペティーは...俺がリタイアさせたよ。あまりにも限界が近かったからね」
俺は正直にマリンにそう伝えた。俺とマリンの間にはしばしの沈黙が流れる。さっきの和やかな雰囲気は鳴りを潜め、重たい空気が場を支配する。そして、マリンを息を吸う音が暗闇の中に聞こえる。
「そう...」
マリンは一言そういった。この発言だけでは、俺に怒ってるのか、納得しているのか区別がつかなかった。
「マリン...俺は...」
「サトルは間違ってないわ」
マリンが俺の話を遮ぎるように言葉を重ねる。そしてマリンははあ、と深く息を吐いた。
「あの時のペティーはあたしじゃどうすることもできなかった。でも、何としてでもペティーを助けたかった。でも、助けられないとわかって、やりようのない怒りをあの時みんなにぶつけちゃったの。誰も悪くない。悪いとしたら自分の無力さを他人にぶつける愚かな行為をしたあたし」
そう言ってはいたが、マリンの声は涙でにじんでいた。耳が痛い話だ。そんなこと言ったら、俺ももっと早くペティーたちを見つけられたら、ダンクの治療などが間に合っていた可能性もある。でも、こんなたられば論は何の意味もなさない。ペティーはリタイアした。現実はこの結果以上にも以下にもならない。俺たちが今できることは、結果を受け入れ前に進むことだけだ。
「そうだな。誰も悪くない。でも、ダンクたちのは迷惑をかけたから明日の朝一緒に謝ろうぜ」
「そうね。あたしのせいで迷惑をかけたのは事実だし」
マリンも自分の中で納得がいったのか、コクリとうなずいた。そして、俺はその場でよっこらせと、腰を上げる。
「じゃあ、マリンはもう少し寝てた方がいよ。今日は疲れてるだろ」
「うん。そうさせてもらう。じゃあお休み」
そう言ってマリンはしばらくして横になった。俺も心残りが消えて、しばらくぐっすり眠れそうだ。そして俺は、交代のためにいびきをかいて気持ちよさそうに眠っているダンクの体を叩いた。




