2-34章 しばしの別れ
やっとの思いで誤解が解けたところで俺たちは再び真面目に話し合う。それは、マリンの暴走の要因にもなったペティーのリタイアの有無についてだ。そして、俺の中の決断はすでに心の中に決めていた。
「仕方がないけど、今回ペティーはここでリタイアするのが最善だと俺は思う」
俺は素直にそう伝えた。ダンクの言ううことが本当な以上、ペティーをこのまま苦しませるわけにはいかない。ここで脱落するのは俺にもマリンにとってもつらい決断にはなるけど、試験は来年にもある。そこでそこで合格すればペティーとまた一緒に魔法を学ぶことができる。今年はたまたま運が悪かっただけだ。
「けど、本当にそれでいいのか。後悔はないのか」
ダンクは自分のポケットから煙草を取り出すと一本口にくわえ火をつける。リリーネは煙草を見ると俺たちから数歩距離を取った。
「最後に嬢ちゃんの気持ちを聞いといてあげてもいいんじゃないか」
そういって首だけ今も苦しそうにうなされているペティーの方に向ける。少なくとも俺たちがリタイアしなかったらペティーとはしばらく会えなくなる。頭ではわかってはいるけれど、やっぱり少し寂しかった。でも、ペティーの苦しんでいる姿を見るのはもっと嫌だった。俺は意を決してペティーのもとに近づき、膝をつく。ペティーはゆっくりと瞼を開ける。
「サトル君...マリンちゃんは...」
ペティーの声は今にも消え入りそうなほど小さかった。体力がなくなってきているのか、呼吸も浅く、回数が少なくなってきている。しかし、彼女は自分の心配よりマリンの心配を先にした。本当に強い子だと俺は思った。それでも、彼女の体力が尽きるまでもう猶予はなかった。
「マリンは大丈夫。心配しないで。ペティー、今の君の状態は危険な状態にある。だから...残念だけどペティー自身のためにもここでリタイアするべきだと思う。ペティーはどう思ってる?」
これは逃げの選択だ。どこかで自分はやれるとペティーに言ってほしい自分がいる。非情な奴だと自分で思う。結局、俺は最後まで自分で決断するのが怖いのだ。ペティーはゆっくりと言葉を紡いでいく。
「私...のせいで...みんなに...迷惑が掛かってる...だから...」
そこで言葉を区切ると、ペティーは自分の方に体を抱き寄せた。しかし、彼女の力は弱く、反射的に俺がペティーの方に体を寄せた。
「私の分まで...頑張ってね...」
俺は静かに胸の高まりがあったのを感じる。ペティーから受け取ったこの思い、無駄にするわけにはいかなかった。
「わかってるよ。絶対にペティーの分まで頑張るから」
そう言って、ペティーは安心したように口角を少し上げた。そして、彼女は自分のバックを指さした。きっとあそこに魔法石が入っているのだろう。俺は彼女のバックから魔法石を取り出してそれを手渡す。冊子のよれば落とすことで魔法石が割れ、転移の魔法が発動するらしい。
「それじゃあ、しばしの別れだね」
俺はペティーに話しかけた。しかし、彼女はもう意識がもうろうとしていて、まともに会話することができないだろう。俺の言葉は半ば独り言のようになる。本当は片時もペティーとは離れたくなかった。それでも自分の決断は間違っていないと俺は自分に言い聞かせた。そして、
「うん...サトル君も...がんば...」
そこで言葉が途切れるとペティーは手に持っていた魔法石を地面に落とした。その瞬間移転の魔法が発動し、まるで最初からそこには何もなかったかのようにペティーが消え去った。俺の腕につけたバンドから音が鳴ったのはそれからすぐのことだった。




