1-12章 ぬくもり
翌日、俺は昨日と同じ時間くらいにアンの家を出た。昨日のあの後について特筆すべきことはないが、アンの家に帰ってから、
「どうだった?ガジャさんとの特訓」
とアンに聞かれたことに答えられなかったことだ。無論、あんなことがあったため特訓などしていないからだ。
俺はあたりさわりのない返答をしてその場を離れた。どんなことを言ったのかすでに忘れてしまったくらいだ。なんとなく申し訳ない気持ちになり、今日こそは特訓の成果をアンに伝えてあげようとますますやる気が出てきた。村の出口をもうすぐ出ようかといったところで、
「おはよう。体の具合いは大丈夫か?」
「ぁ...」
ばったりとガジャと出くわした。昨日と同じような感じになったので激しい既視感に襲われる。
「どうしてここにいるの?」
素直に思っていたことを聞いてみる。するとガジャは自分のあごひげを触りながら、
「昨日あんなことがあったから心配したんじゃ。あのバカガキどもにまた絡まれてるんじゃないかってな」
昨日俺が村長の息子にボコボコにされたいたから、わざわざ村まで下りて来てくれたのだ。俺はこの世界でアン以外に初めて俺のことを心配してくれる人ができて、とても嬉しかった。泣きそうになった目をガジャに抱き着くことで見せないようにする。俺にできたせめてもの照れ隠しだった。
「ありがとう。ガジャ」
ガジャは突然抱き着いてきた俺のことを優しく抱きしめてくれた。俺はガジャの顔を見上げる。そこには初日にあったような険しい表情はなく、ぎこちない笑顔で、
「おう、それじゃ行くぞ」
そういって俺の手を優しく引いてくれた。はたから見ればおじいちゃんと散歩をしているように見えるのだろうか。おじいちゃんっ子だった俺からしてみればガジャの存在はとても大きいものだった。
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手をつないだまま俺たちは畑に向かった。もちろん、この前タイコンをとった畑だ。しかし、ガジャはそこを通り過ぎて、奥にある山のほうに向かっていく。
「特訓はここでやるんじゃないの」
興味津々に俺はガジャに聞く。
「これは町に持っていく野菜で万一傷ついたらダメになっちまうだろ。特訓はあの山でだ」
そういって、少し先にある山を指さす。特別でかいわけではないが富士山より一回り小さいだろうかといった大きさだった。
「ところで...」
目の前にある山をボーっと見ていると、唐突にガジャが口を開いた。
「お前さんは,,,」
「ちょっと待って」
俺はガジャの言おうとしたことを遮り口を開く。
「俺の名前はサトル。これからはそう呼んでほしいな」
自分を名前を読んでほしいとそう伝えてみた。考えてみれば自分の名前を言っていなかったように思える。少し驚いた顔をしたが、すぐにいつもの無表情に戻ると、
「わかった。そしたら改めて。サトルは...」
一呼吸おいて、ガジャは俺の瞳をまっすぐと見つめる。
「自分に才能があると思うか?」
彼が、俺の最初の入門試験だといわんばかりに自分の魔法についての才能を聞いてきたのだ。




