2-31章 理不尽な世界
理不尽かもしれない。不条理だと泣き喚いていいのかもしれない。でも、失った過去とその時に心に刻んだ後悔があたしに逃げることを許さなかった。
目の前の「少女」は俺なんかよりずっと苦しんでいた。目の前の友達が苦しんでいるのを指をくわえて見ているしかなかった。
自身の疲弊と格闘しながら降りてきた一筋の希望。彼女はただ救われたかったのだ。ただ一言「この子はまだ助かる」と言ってほしかっただけなのかもしれない。嘘でも、冗談でも自分がやってきたことは正しかったのだと言ってほしかったのかもしれない。
でも、現実は彼女にこう囁いた。"この子はもうだめだ。諦めるしかない"と。刹那の間に、彼女は思っただろう。自分のやり方に間違いがあったのか。ほかに彼女を助ける最善の選択はなかったのか。彼女は自問自答した。
結果、友達が助からなかったのは自分のせいではないと結論付けた。そうでないと、目の前に起きた現実を受け止めきれなかったのだろう。自分のせいで彼女は誰かを傷つけたくなかったのだろう。
彼女はもう、失うのが怖いのかもしれない。
俺はゆっくりと瞼を開ける。自分の両手を開閉しながら自分が現実とは異なる場所で思考していたことに気づく。しかし、現実の時はほとんど進んでいなく、ほんの数秒、いや、もっと一瞬だったのかもしれない。
「決断はできたか、兄弟」
ダンクの言葉は俺をまだ見定めている段階にあるのか、敵意も善意も感じ取ることができない不思議な口調だった。リリーネは一連の騒動にも何ら動揺はせず、ただ俺たちの動向に静観を貫いている。
「二つ、頼みごとをしていいか」
自身がどう言葉を発声したのかわからない。周りの雑音がかき消され、必要な音だけが耳に響く。頭がふわふわしているのに、思考はクリアで体も軽く感じる。
「聞こう」
ダンクが短くそう答えた。俺は右手で2本指を立てる。正面から自分の3倍ほどもある強大な魔法が俺の全身を包もうとする。
「一つ、お前たちは自分の身だけ守っていればいい」
俺はその魔法を振り返らずに一瞬で相殺した。ダンクとリリーネの驚愕した顔だけが俺の瞳に映る。
「二つ、お前たちはここから一歩も動いてはならない」
今度は俺に向けられた無数の黒い攻撃を的確に受け止める。俺は一部攻撃をさばききれず、右肩から血が流れ落ちる。俺は気にせず二人から目をそらさなかった。
「それで、俺たちに何をしてほしいんだ?」
ダンクは俺の魔法さばきに驚きはしたものの、受け答えに動揺した様子はなかった。
「ただ、見ていてくれ。彼女に害意がなくて、俺たちがお前たちに無害なことを証明させてほしい」
「わかったわ。あなたの言葉を信じるわ」
今まで静観していたリリーネは間髪入れずにそう答えた。一方のダンクはリリーネのように即決はせず、少し考えこんだ。しかし、沈黙は長くは続かず、口元にニヤリと笑みを作った。
「そうだな。その方が面白い。お前の有志を見届けさせてもらうぞ、兄弟」
「ありがとう、迷惑かけるな」
「その言葉は、目の前の"あいつ"をどうにかしてから言ってくれ」
そう言われ、俺は再び目の前の狂気に満ちた"少女"を見据える。彼女を正気に戻しつつ、約束をした以上、俺は後ろの二人を傷一つ守り切らなければならない。理不尽かもしれない。不条理だと泣き喚いていいのかもしれない。でも、彼女が絶望に打ちひしがれている姿と恋人から託された思いが俺に逃げることを許さなかった。




