2-29章 決断の時
30分ほどダンクは付きっ切りでペティーの様子を見続けていた。俺はただダンクがペティーの看病をするのをただ黙って見守ることしかできなかった。マリンの方は俺の水などを少し分けてあげたおかげで、さっきよりも顔色が良くなってきた。そして、ダンクがゆっくりとペティーを木の幹に座らせた。ダンクはやや重い表情俺たちを見る。
「忌憚のない意見を聞きたいか。それとも気休めを言ってほしいか。お前たちはどちらがいい?」
その言葉だけでこの先ダンクがなんていうのかの察しなんかついていた。しかし、この男は最後まで俺たちに関する心の配慮を忘れなかった。
「気休めなんていらないわ。本当のことだけを言ってちょうだい」
マリンはだるそうに上半身をあげてダンクの方を見た。マリンの体調は全回復まではしてないはずだが、目つきだけは鋭くダンクを射抜いていた。ダンクは口元だけに一瞬笑みをつくったが、すぐに真剣な表情に戻る。
「それじゃあはっきり言わせてもらう。この子の試験続行はほとんど不可能だというのが俺の見解だ」
俺は悔しい思いを奥歯をかみしめることで何とかこらえる。マリンも表情を崩さないように必死に平静を保っている。
「ラムサー森林には、50年ほど前に大流行した病原菌があった。今では特効薬や専用の治癒魔法も確立されたが、完全になくなったわけではない。この病原菌はかかること自体は珍しいが、かかったら最後、治療するまでそいつの体を蝕んで最悪死に至らしめる。50年前に流行った時は、かかった人間のほとんどが死に至った危険な病気だ」
「治療することはできないのね」
マリンの声は喉がつぶれているのかかすれていて、とても細い声だった。ダンクはかぶりを振ってこう続けた。
「俺はちょっとした医者まがいの治療はできるが、治癒魔法は使えるわけじゃない。それに、特定の病気の治癒魔法は、その道のエキスパートでないと治癒ができない。治癒魔法の出力が相当おかしければ話は別だけどな」
ダンクの詳しい説明に俺たちは二つの選択肢が迫られていた。ペティーがこの病気に耐えながら、残りの期間を生き残るか、それとも今すぐに脱出用の魔法石を使用して試験をリタイアするか、ペティーのことを考えれば答えなんて考えるまでもなかった。
「そしたら、ペティーには魔法石を...」
「あんた、嘘ついてるんでしょ」
マリンのどすの利いた憎悪のこもった声があたりを閑散とさせた。ペティーの見る目はまっすぐダンクへと向けられている。そして、今度はリリーネ、俺へと視線を向けていく。
「あんたたち、ペティーを試験に落ちてほしくてわざと嘘ついてるんでしょ!?そうなんでしょ!?」
「マリン少し落ち着け!」
「触らないでよ!!」
俺は錯乱状態に陥っているマリンを止めようとるために彼女の手首をつかんだが、思い切り腕を振り切られる。彼女の目は夜通しペティーを見ていた寝不足、どうしようもない怒りや憎悪、様々な感情で目が血走っていた。
「ダンクさんの言っていたラムサー森林の話は私も聞いたことがあるわ。健康な人はほとんどかからないけど、体の弱い人や子供や老人はこの病気でたくさん殺されたって。仮にダンクさんが治癒魔法を使えないと嘘をついていたとしても、特定の病気を治せるほどだとは思えない。残念だけど今回の試験はあきらめるしかないと私も思うわ」
リリーネはダンクが嘘をついていると仮定してもなお、ペティーはここでリタイアするべきだと理論的に説明する。しかし、今のマリンには言葉が通じないほどマリンは怒りに身を任している。
「そんなことはない...ペティーは助かる...あんたたちはあたしたちを騙している...」
今のマリンにはどういう言葉をかけても通用する気がしなかった。完全に理性を失っている。そう表現するのが一番正しい解釈だと思った。
「こうなったら、今ここにいる全員この場でリタイアさせてやる」
そういって、マリンは俺たち3人に対して無差別に魔法を放っていく。乱反射した魔法は不規則に当たり、一帯に被害をもたらした。
「まさか...」
俺たち3人はすぐにマリンから距離を取って臨戦態勢に入る。ダンクは手に持った杖を構え、リリーネもクリッピーを従え、雪のように白い杖を取り出した。目の前に相対する"人でない獣"は目を紅く迸らせ、絶大な魔力を体中にみなぎらせていた。




