2-28章 無力なだけ
「紹介がまだだったわね。私の名前はリリーネ。昨日ぶりね」
「俺の名前はダンク。まさかこんな早く会うとはな」
戦闘を走る「クリッピー」と呼ばれている動物を追いかけながら俺たちは先を急ぐ。リリーネがここに俺たちがいる大体の予想がついたのも、このクリッピーの鼻で昨日俺たちが嗅いだにおいを追跡したかららしい。そして、俺たちが今ペティーのいるところへ、不規則で景色の変わらない森の中を迷わず迎えているのもクリッピーのおかげである。
「二人ともあなたが来るのをずっと待っていたそうよ」
「え?」
むさくるしい森の中を軽快に走りながらリリーネは言う。彼女は自身の髪が走る際に邪魔にならないよう、高い位置に髪をまとめていた。
「魔物が多いこの森では、病人を抱えて突破できるほど生易しいものじゃない。黄色い髪の女の子はもちろんだけど、赤い髪の子もかなり疲弊していたわ。彼女は藁にも縋る思いで私にしがみついてきたわ」
リリーネはペティーとマリンにあった時の事を思い出すかのように話を続ける。リリーネが見つけてくれなかったら、二人はかなり危ない状況だったらしい。
「昨日あなたたちにあった時のことを思い出して、聞かれた情報と一致しているから、クリッピーを先行させて、私が少し看病していたんだけど、なかなか収まる気配がなくてね。あなたたち、治癒魔法は使えるの?」
リリーネがあまり期待もしてなさそうに訊ねる。俺はもちろんかぶりを振ったが、ダンクは否定も肯定もしなかった。「まさか、治癒魔法を使えるの?」とリリーネは言ったが、ダンクはそこで首を横に振った。
「いや、治癒魔法は使えないが、ちょっとした医学の知識はある。こう見えて頭はいいんだぜ。俺は」
とダンクは足元にある段差を飛び越えながら言った。「それもそうよね」とリリーネは首肯した。
「この歳で治癒魔法なんて言う高度な魔法。使えるほうがおかしいわね」
これにもダンクは「そうだな」とリリーネの意見に賛同していた。それじゃあ、俺より年下で治癒魔法を使えるペティーは何者なのか。ここの入学試験を受けるほどの実力者なら、この二人の魔法の実力も相当あるはずだ。それでも、治癒魔法は使えるわけはない、という結論を出している限り、ペティーはギフトとは違う特別な才能を彼女は持っているのかもしれない。
「ウウウ...ブルルル...」
クリッピーが目の前で立ち止まり鳴き声を上げる。俺たちはゆっくり近づくと、そこには肩で息をして目をつぶるペティーと、目の下に隈ができ、明らかにやつれているマリンの姿があった。
「ペティー!マリン!」
俺は様子がおかしい二人に近づき、ペティーのおでこと、マリンの手首に手を当てる。ペティーは信じられないほどの高熱に、マリンもペティー程ではないがこの猛暑の中で高熱にうなされているようだった。
「サトルとリリーネ。君たちはこっちの子の手当てを。俺はこっちの子を見る」
ダンクは迅速に役割を割り当てると、俺たちはペティーの看病を任される。ダンクの方も熱を測ったり、ペティーの体の様子を調べ始めた。
「サ...トル...」
かすかに意識が戻ったのか、マリンが俺にかすれた声で呼びかける。
「マリン...すまない。俺がもっと早く見つけられたら」
「そ...うよ...何で...もっと...早く...」
そこでマリンの意識も途切れたのか、マリンは再び眠りについた。会話の最中にリリーネは自身の魔法で手のひらサイズの氷を生成する。
「少し冷たいかもしれませんが、これを頭のところに。ダンクさん、あなたにも」
そう言ってリリーネは俺とダンクに氷塊を一つずつ渡し、俺はマリンの頭の上にそれを置いた。二人の窮地の時に立ち会えなかった自分の無力さに俺は胸が張り裂けそうな思いだった。今はひと時も二人のもとを離れたくない。その一心で俺は二人の快復をただ祈ることしかできなかった。




