2-23章 闇の刺客
「おーい、サトル起きてくれ」
浅い眠りから覚醒し、俺はゆっくりと瞼を開けた。そこには、その長い魔法杖を使って俺をつついたであろうダンクがあくびをかきながら眠そうにしていた。時刻は深夜0時と言ったようなまだ月明かりが出ている時間帯だった。
「そろそろ交代してくれないか...さすがに眠い...」
ここまで気を張っていてくれたダンクには感謝しかない。俺も完全に眠れたわけではなかったが、目を閉じた分いくらか体力を回復することができた。
「見張りありがとな。朝までは俺に任せろ」
「ああ...まかせた...」
そういうとダンクは死んだようにそのまま眠りについた。さすがに野生児のような体力を持つこの男でもあれだけ歩きまわっていたのでは疲れも出てきたのだろう。俺は体を起き上がらせて何をするでもなく、森の奥の奥を見て、心を落ち着かせていた。いつまでも俺の不安がぬぐえることはなかった。ウィットネスのみんなの期待、ガジャからの言葉、ルークとの約束、そして、ペティーへの思い。考えることは山ほどあって、でも、全部今すぐ叶えられるほど簡単なものではなかった。一歩ずつ歩を進めていくことでしか物事は前進させることはできない。ちりつもの考えが俺の人生の根幹を支えてきたものだ。
「それにしても暇だな...」
ダンクは見張りが必要とは言っていたが、果たして魔獣以外で俺たちを襲う人物なんているのだろうか。受験生同士の足の引っ張り合いをするにしても、この時間帯は心配する必要はないと俺は踏んでいた。その時だった。俺の目と口が一瞬でふさがれたのは。
「そのまま黙って俺の言うことに耳を傾けろ」
「...」
俺は状況が全く読めなかった。ふさがれた瞬間声をあげようとしたが、先を読まれて声を出せずじまいになった。しかし、俺への殺意はないようなので、俺は黙って後ろにいるであろう相手の言葉に従う。
「一言一句聞き逃すな。黒き刃の死が其奴の首にかかるとき、気を付けるは自分自身にあらず」
「...」
俺は黙って言葉の意味を咀嚼する。しかし、あまりに緊張感が高いこの空間で思考が正常に働く気がしなかった。俺と謎の人物の間には沈黙が落ちる。しかし、俺は思い切って後ろの人物に声をかけてみる。
「あんた誰だ?何で俺にこんなことを聞かせた?」
「...」
男か女かも俺にはわからない。後ろにいる奴は俺に一方的にこの言葉を聞かせるためだけにここまで来たのだろうか。それとも...
「水晶はお前を選んだ。お前とはいずれまた会うだろう...」
そういうと、俺の目と口をふさいでいた圧迫感から俺は解放される。俺はすぐに後ろを振り向いたが、そこに人がいたような気配は全く感じられなかった。特に体にも異常はなく、今の人物は本当に今の言葉を伝えるためだけにここにやってきたのだろうか。
「黒き刃の死...気を付けるは自分自身にあらず...」
先ほどの人物が俺に伝えたことを俺は反芻する。黒き刃の死が其奴の首にかかるとき、気を付けるは自分自身にあらず。これはこの世界の何かの隠語なのだろうか。現状、これが何を意味するのか俺にはわからない。そして水晶は俺を選んだという言葉。謎は深まるばかりだった。先ほど言われたことを相談したいが、内容が内容だけに気軽に相談できるようなことではない。いっそただの戯言だと割り切った方が心が楽になるような気がする。
「まあ、暇だしダンクが起きるまで考えてみるか」
俺は緊張感から解き放たれて、あたりをうろつきながら先ほどの言葉を振り返る。そのことに没入している間に夜はあっという間に更けていった。ダンクの背伸びした時の音で俺の思考の糸がプツリと切れた。




