2-20章 野郎との夜
俺は、大量の枝をもって印のある場所まで何とか戻ってくる。見たところ、ダンクはまだ戻ってきてはいないようだった。火をおこすのには長いのが先とか、デカいのが先とかなんか豆知識があった気もしなくもないが、俺はそこまで詳しくは知らなかったので、適当に枝を山上に盛って火をつける。しばらくすると、火が枝から枝え燃え移り、焚火と呼べるほどの火が出来上がった。
「おー」
キャンプなんて現世を含めてもしたことがなかったから、火が上がるだけでも新鮮だった。しかし、ラムサー森林は暑さに加え湿気も多いため、火の回りは特に暑苦しかった。
「...」
俺はボーっと火を見つめながらペティーのことについて考える。最後にペティーを見た時、つまり、一時試験の説明を聞いている時はそうでもなかったが、マリンとも合流できていない場合、体調不良のペティーがこの日をしのぐだけでもかなり苦しいだろう。せめてマリンと合流してくれていればいいが、今日の聞き込みの限り、期待できる話ではないことは確かだ。
「どうした兄弟。火なんか見つめて。悩み事か?」
俺ははじかれたように声のする方向に顔を向ける。すると、満面の笑みを浮かべたダンクが両手に2匹の魚をもって帰ってきていた。両手両足の袖や丈はめくられており、水で足が濡れていた。
「よく捕まえられたな。2匹も」
俺は思わずダンクが手に持つ二匹の魚を見る。ところどころにピチピチと体を震わせているが、尾びれをがっちりとダンクがつかんでいるため、魚たちはそこから逃れることができなかった。
「ハッハー!俺も運がいいな。まさか。2匹も捕まえられるなんてな」
そして、手に持った一匹の魚を俺に渡してくる。ダンクが持ってるから小さいように見えたが、全長15cmほどもある魚は十分に俺にとって大きかった。
「こういうのは丸焼きがおいしいんだよなー」
そう言ってダンクは手に持った魚を浮かせると、俺がつけた火の周りで焼き始めた。確かに串にさして焼くのが一般的だと思っていたが、こっちでは浮かして焼けばいいのか、と俺は合点がいった。俺もダンクに倣うように魚を焼き始めた。
「それにしても意外だったな」
「うん?なにがだ?」
魚をくるくる回しながら魚を焼くダンクが俺に尋ねてくる。
「魔法師って言いうのはある程度いい家系の奴しかなれないから、こういう試験は不慣れだと思ってたんだが、兄弟はそうでもないみたいだな」
「まあ、実際にやったのは初めてだけどな」
俺は生まれてからから死ぬまで、キャンプという言葉は知っていたけれど、キャンプ自体やるのは初めてだった。だから、今焼いている魚がおいしいかどうかは甚だ疑問だった。
「心配ないぜ兄弟。その魚は食えはするはずだ。毒もない」
俺の考えを見透かしているかのようにダンクがそういって。自分の魚にかぶりついた。そういわれたので、俺も目の前の魚のこんがり焼けたおいしそうなところにかぶりついた。
「うーん!」
海からとってきていたのだろうか、調味料はないはずなのに塩の味がきいて、食べ応えのある魚に俺は感動した。丸焼きだけでこんなにおいしいものになるのだろうか。
「兄弟の満足そうな顔が見れて俺は満足だぜ」
おいしいという表情が顔に出ていたのか、ダンクがニヤニヤした顔でこちらを見てくる。俺はそのまま黙って手に持った魚を爆速で食べた。途中で魚の骨が詰まって死にかけたが、ダンクが背中を叩いてくれて、何とか耐えることができた。
「しかし、ダンク...」
俺は死にそうになりながら、俺に水を渡すダンクの方を見る。「ん?なんだ?」とダンクは手早く俺がはいた排泄物の処理をしながら答える。
「魔法師はある程度いい家系しかなれないってお前は言ったよな?」
「ああ、それがどうした?」
俺は口をたれるよだれを盛大に拭く。まだ少し、魚の骨がつっかえた感覚がのどに残っている。
「いや、それにしては俺よりも今回の試験に対して適応してるなって思ったから。それが気になったんだ」
彼が変人であることは抜きにしても、食料の調達から、その前の火の用意を俺に伝えるなど、彼もまた、魔法師でありながらこのような生活に慣れているような振る舞いを見せていた。自分で魔法師は裕福な家系しかなれないと言ってはいたが、それを自ら否定するほどのサバイバルの腕を彼は持っている。しかし、彼はフッと薄く微笑し、
「その話この試験を乗り越えた時にでも話してやるよ。今は試験に集中しようぜ」
と言い、自分の魔法で煌々と燃え滾る焚火を一瞬で消し去った。




