2-19章 便利な魔法の杖
その後も俺たちは出会った受験者に、なりふり構わず情報を聞いて回ったが、大した収穫は得られなかった。むしろ、見知らぬ人間に人探しをしているなんて言われても、好奇な目線で見られるだけでまともに取り合ってはくれなかった。それは当然だ。みんなこの学校に受かるために必死に努力してきている。見ず知らずの人間を助けるほど皆がみんなお人好しじゃない。
「まあ、心配すんな兄弟。明日以降も兄弟のために協力するぜ!」
3時間近く森の中を歩きまわているのにもかかわらず、ダンクは全く息切れもせずに歩き続けている。さすがの俺も少しは疲れが出てきた。それにもうすぐ日没である。これ以上の捜索は体力的にも、精神的にもきつくなるだろう。
「ダンク、そろそろどこかでキャンプでもしないか?」
「きゃんぷ、ってなんだ?」
俺はあーそうだった、と頭を抱える。時々だが、こっちの世界と現世で通じない言葉がままあるが、いまだにこの感覚になれない。俺は手短に概要をダンクに伝える。
「ああ、確かに!寝床と食料を集めにゃならんな。そしたら...」
ダンクは、自分のリュックを木の根元に置き、杖一本を持ってその場に仁王立ちする。
「俺は近くの海か湖で魚を釣ってくる。兄弟は火をおこすために、木を用意してくれないか?」
「魚を釣ってくるって、竿とかないのか?まさか、素手で捕まえようとするんじゃないだろうな?」
湖ならギリギリ素手で魚をつかんで捕まえることもできるかもしれないが、海だとそうもいかないだろう。ダンクには魚を捕まえるための秘策か何かがあるのだろうか?
「ふふーん。そこは安心しな。俺の魔法杖はそんじょそこらの魔法杖とはわけが違うんだぜ」
そういって、ダンクは手元にあるスイッチのようなものをポンと押した。すると、魔法杖の先端が引っ込んで、釣り竿のルアーのようなものが飛び出してきた。
「なんだその高機能な杖は!?」
魔法の杖ってそんな万能なものだったか?、と目を疑いそうになったが、ダンクはチッチッチと人差し指を左右に交互に振った。
「こんなこともあろうかと魔法杖をちょっとばかし改良したんだよ。魔法で捕まえる手もあるが、長期間の試験だし、なるべく魔力は温存したいしな」
と自慢げにダンクは答えた。それにしても、この試験を見越しているかのような用意の良さに、試験内容を知っていたんじゃないか?という疑問さえわいてくる。
「そんじゃ、そっちはそっちで任せたぜ。すぐに帰ってくるからよー」
そして、ダンクは俺にそれだけ言い残すとすぐに魚を釣りにどこかへと消えて行ってしまった。マップを見た限り、いくつか湖や海はあったが、地図も持たずにダンクは大丈夫だろうか。
「まあ、いまさら心配してもしょうがないか」
木がたくさん生い茂っていることもあり、すでにダンクの姿を見ることはできない。最悪彼が魚を捕まえれなくても一日二日じゃ人は死なない。少ないながらも彼に期待を抱くのも悪くはないだろう。
「俺は俺で火をおこすための木を集めることも任されたからな」
とりあえず俺は近くにある落ちている枝を眺める。火をおこすための木にしては、小さく、短いものが多かった。
「少し、探し回らないとダメか...」
試験初日にもかかわらず、慣れない環境で動いているせいか、かなり体の負担は大きく、特に足は疲労で悲鳴を上げている。なるべく短時間で木を集め終わって体を休めたい。
「それと、これは忘れずやっておくか」
俺はそういって、魔法を使って近くにある大木に大きくバツ印の印をつけ、その周りにも同じようなあとをつける。これで最悪迷っても大丈夫だろうと俺は思い、重い足を動かしながら枝集めに向かった。




