2-13章 単純明快な試験
それほど会場中はうるさくはなかったが、目の前に立つ男の迫力と声に、周りにいる受験生は一瞬にして誰もが口を閉じ、あたりが静寂に包まれる。
「それではこれより今、バルセルク魔法入学試験を行う。まず、今回の試験官と救護担当を紹介する。今年の入学試験の総試験官は私、ゼラウが担当させていただく。よろしく」
魔法師にしてはかなり体格のいい男性が一度礼をする。そして、再び俺たち受験生を順々に見まわすと、
「次に副試験官を2名紹介する。二人とも前へ」
そういうと、今度は2名の副試験官と思しき2名の男女が、男と入れ替わって前に出てくる。
「はーい、紹介にあった副試験官アルダでーす。受験生のみんなよろしく!!」
何ともパリピを彷彿とさせるような陽気な挨拶で会場を盛り上げようとする。しかし、試験を目前とした受験生の前に冗談でも笑いなどは起きなかった。
「はい、もう一人の副試験官は私、ジャンヌです。よろしくお願いしまーす」
隣で落ち込んでいる男の背中を思いっきり叩きながら、その女ジャンヌはこちらも陽気に挨拶をした。いかにも体育会系の腑に木を醸し出しているこの女性は、元気溌剌と言った様子だった。そして、二人と入れ替わるように再度ゼラウが前に出てくる。
「そして、今回の皆が怪我などをした際の救護の担当を紹介する」
そういって、もう一度ゼラウが後ろに下がると、今度は一人の女性が前に出てくる。
「ご紹介にあずかりました、本試験の救護担当、エミリーゼと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
さっきの二人とは打って変わって、上品さをうかがわせるような女性エミリーゼが短く挨拶をすると、もう一度ゼラウが前に出てくる。
「それでは、これよりバルセルク魔法学校入学試験の概要を説明する。まず、配布資料があるため配られたら目を通すように」
そう言うと、さっき出てきた二人の副試験官が順番に受験者全員に資料を配っていく。すぐに俺たちのもとにも資料が回ってきて、まず表紙に目を通す。表紙には「バルセルク魔法学校入学試験 試験概要」と書かれている。
「それでは試験概要を説明していく。まず、開いてすぐのページに目を通してほしい」
そう言われ、俺は冊子の開いてすぐのページを見る。受験者が一斉にページをめくる音が聞こえてくる。
「今回の試験概要は、簡単に言えば5日間のサバイバルとなる」
ゼラウがそういった通り、冊子の最初のページには今回のサバイバルの舞台となる地図のようなものが簡単にだが描かれていた。
「1次試験の合格条件はいたってシンプル。5日間ただ生き残ることだ」
その単純でなんの裏表もない試験内容に受験者は驚愕と困惑の声をあげる。そんな同様なんて気にせず、ゼラウが説明を続ける。
「今回の試験、後ろに書いてある試験の注意事項に違反しない限り、どんなことをしても基本的に自由だ。仲間を作り、協力するもよし、一人で5日間乗り切るのもそれでよしだ。とにかく5日間生き残り続けることが合格条件だ」
そして、ゼラウは懐から橙色に輝く魔法石を取り出す。
「そして、今回受験生全員に各一個支給されるのがこの魔法石だ。この魔法石を地面に投げつけ、割ることでこの会場に戻ってくることが可能だ。ただし、魔法石を使用したものは試験辞退とみなし、不合格となることには注意するように」
この魔法石はおそらく、5日間の中で水や食料を確保できなかった場合の救済措置のようなものだろう。割るだけで、ここに戻ってこれるなんて相当便利な代物だろう。
「そして、この魔法石を使う際のアドバイスを君たちに伝える。この魔法石を...」
「この魔法石を使おうと思ったら、絶対にためらってはならない」
さっきまでお茶らけていたアルダが、ゼラウの声を遮り、緊張感の持った声でそう言った。
「お前らがこの魔法石を使おうと思う状況は、相当やばい状況だろう。今日のために頑張って努力して今日を迎えたやつもいるだろう。そんなときに、今日までの努力のためにこの魔法石を使うことをためらうやつもいるかもしれねー」
そういって、アルダは手に持った魔法石をテンポよく上に放り投げる。
「だが、使うと決めたからには迷わずこれを割れ。ためらったばっかりにこの試験で死んだり、魔法師としての人生を絶たれる奴はうちには必要ない。自分の実力を認めて、引き際を見極められる奴こそが魔法師として長く活躍することができる。わかったか、お前ら?」
アルダの問いかけに受験者の誰も声をあげることができなかった。
「わかったか、お前ら?」
「はい!!」
もう一度声を張り上げたアルダの声に、今度は大勢の声が答える。その答えにアルダは満足すると、ゼラウと場所を交代する。
「アルダ副試験官の言う通り、この試験で決して無理はしないこと。そのための救済措置としてこの魔法石があることを忘れないように」
ゼラウは最後に、念押しとなる最後通告を俺たちにして、試験の内容の説明の続きを行っていった。




