1-10章 自らの夢を
目が覚めると、そこはガジャの家の中だった。殴られた衝撃で、まだ少し頭痛がするが無視できる範囲内だ。ベッドに横たえられていた俺はゆっくりと瞼を開け周りを確認する。最後の記憶からガジャの家の寝室であることは間違いないのだが、
「思ったよりきれいだな,,,」
最初に出てきた感想はそんなものだった。寝室という家の中でもかなりプライベートな空間では一人暮らしなら特にきれいにしようという意識がなくなってしまうのではないかと俺は考えている。もちろん、俺が現実世界で一人暮らしをしていたという経験をしてきたから言えることだ。
それはそれとして、もう一つ気になったことがある。それは、
「結構いろいろな本があるな」
目の前にある本棚に敷き詰められた難解そうな本の数々である。例のごとく文字は読めないのだが、アンの部屋に比べて少なくても倍以上の本があり、内容はというと、
「うわぁ,,,文字ばっかだ,,,」
現世でいる専門書、もう少しカジュアルにすると小説に匹敵するほど文字が並んでいて絵本や入門書のような類のものは多くないように思えた。本棚の本を物色していると、右手にあるドアから大柄な男が入ってくる。
「こら、何やっとるんじゃ。しばらく安静にしておれ」
そういって少し額に汗をかいているガジャが扉の前に立っていた。
「傷はワシの魔法で消すことはできたが、万全ではない。今日は少しここで休んでから帰れ」
そういって、俺をベッドに寝かしつけてくれた。俺は改めて自分の体を眺める。確かにガジャの言っている通り、あれだけボコボコにされたのに目立った外傷は確認できなかった。やはり凄腕の魔法師なのだな、と再確認させられる。
「傷を治す魔法って難しいの?」
俺は疑問に思ったことをガジャにぶつける。すると、ガジャはバツが悪そうな顔をして、
「適性があるやつはあっという間にできるようになる。ワシは治癒魔法はあまり得意じゃないんじゃ」
と答えた。どんな魔法も軽々と使えこなせそうなガジャを見て、俺はちょっとうれしくなる。
「ガジャさんの得意な魔法ってどんなの?」
そして、今度は彼の得意な魔法に関することを聞く。すると彼は、さっきの反応とは反対に、
「得意な魔法はない。どんな魔法も大抵は使える。この歳になればみんなそんなもんじゃ」
何でもないように彼は答えたが、半分以上は謙遜が入っているだろうなというのが俺の推測だった。そして、俺は最後に気になっていた質問をガジャにぶつけた。
「俺、研究員になりたいんだ。どうすればなれるの?」
ガジャはほんの数秒目を閉じ思案してからゆっくりと目を開けると、
「わしが定年まで教鞭をとっていたバルセルク魔法学校という世界最高の魔法学校がある。そこならお前さんの求める研究員になることができるだろう」
彼の目には、お前に本当にできるのか、と言われているような期待とそして試すようなまなざしを送ってくる。対する答えは言うまでもなかった。
「俺絶対になってみせるよ。そして、この世界の魔法の謎を解き明かして見せるよ」
強く、俺は半分自分に言い聞かせるようにガジャに宣言する。そして、ガジャは俺に対して初めて好意的な笑みを浮かべて、
「その言葉、わしは忘れんぞ。明日から毎日ワシのところに来い。魔法に関する手ほどきをしてやる」
それだけ言い残し、彼は部屋を出て行った。そして俺もしゃべりすぎて疲れたのか数秒後にはガジャのベッドで眠りについていた。




