2-11章 ただの結果
馬車は緩やかに舗装された山道を着々と上っている。バルセルクまではここから1時間ほどかかるらしく、ちょっとした長旅になるような予感がした。
「ペティー、まだ具合悪いなら無理してないで寝てていいからね」
「マリンちゃん、いいの?」
「いいのよ。まだちょっと具合悪いんでしょ?」
「わかった。それじゃあ...」
そういって、ペティーはマリンの膝の上に頭をのせると静かに寝息を立て始めた。俺たちの周りには周りの雑音とペティーの寝息だけの静かな空間が流れ始めた。
「ねえ、サトル」
その静寂を破るかのようにマリンが俺に話しかける。マリンは自分の膝で気持ちよさそうに寝ているペティーの頭をなでている。
「私達、合格できると思う?」
「なんだよ、急に弱気な発言だな」
今までのマリンからは想像つかないような弱気な発言に俺は半分冷やかしのようにマリンを煽る。しかし、マリンは俺に鋭い視線を向ける。
「あたしは本気で聞いてるのよ」
俺はマリンの気迫に気圧され、真剣に言われたことを吟味する。そして、吟味した結果を正直にマリンに伝える。
「俺たちは、短い期間だったけど一緒に魔法について勉強したり、特訓してきた。どんな試験でどんな奴が受験するかなんてわからないけれど、ガジャやみんなに教わってきたことを発揮すれば絶対に合格できるだけの実力はあるよ」
「...なるほど。あんたは前向きね」
「マリンこそ、今日は何か弱気じゃないか?いつものエゴむき出しの姿勢はどうしたんだよ」
今日のマリンは朝から口数が少ないと感じていたが、どうやら俺の思い違いではないらしい。さすがのマリンも緊張しているのかもしれない。
「あたしは...自分の実力を証明するために、バルセルクを目指している。ここで落ちて、時間を無駄にしたくないの」
マリンは自分の右手を思いっきり握りしめる。言いようもない緊張感が場を支配していた。しかし、
「そんなに根を詰める必要もないぜ。まだまだ俺たちの人生はこれからだぜ」
「...何が言いたいのよ」
低い声でマリンが訊ねて、俺は話を続ける。
「マリンがどういう目的で魔法師を選んで、何のためにバルセルクを目指しているのか、この短い付き合いだけじゃ全然わからなかったけど、お前は俺たちの中で一番魔法を使うことを楽しんでたよ」
俺とマリンは魔法の方針や考え方で何度も言い合いをしてきた仲だ。その中で、こいつが魔法に対してのこだわりやプライドがめちゃくちゃあるっていうのは知ることができた。
「今日もいつも通り楽しむだけだ。そこに合格と不合格っていう「結果」があるだけだ。本質は何も変わらない」
「あんたは気楽そうでいいわね。虚勢を張ってるんじゃないの?」
「まあ、否定はしないね」
正直、純粋な魔法力では俺はペティーやマリンと言った魔法師にはかなわないと思っている。実際、今回の受験者の平均より魔法力をは低いだろう。
「でも、それとこれとは話は別だ。勝負は勝ったものが勝者なわけではない」
「何よ、それ」
マリンの笑顔を今日初めて見た気がする。俺もマリンにつられて笑みをこぼす。
「もし、あたしがあんたを蹴落としてでも受かろうとしても恨み言はなしだからね」
「望むところだ」
いつものマリンの調子が戻ってきてかなり安心した。でも、本当にそのような状況に陥った時、俺は、マリンはどんな決断を下すのか。それは、実際に試験が始まってみないと誰にもわからない。




