2-10章 思いを背負って
朝、窓から差し込む日光が俺の目にさし、まぶしくて目を覚ます。昨日はなかなか寝付けなかったけど、早く布団に入ったおかげか、相対的に睡眠時間を確保することができた。俺は、適当に箪笥から適当な服とズボンを引っ張り出して、部屋にある鏡で髪を整える。いよいよバルセルク魔法学校の入学試験当日となった。今までやってきたことに不安はないけれど、試験では何が起こるかわからない。いつも以上に気張って臨む必要があるだろう。
「サトル、準備できた?」
ドアの奥からマリンが俺を呼ぶ声が聞こえてくる。俺はすぐに持っている服を着ると、ドアを開けた。
「うん、大丈夫」
「そ。それじゃあ行きましょ」
マリンはすぐに玄関に視線を向けると、そのまますたすたと歩きだす。いつもよりマリンの口数が少ないのは気のせいだろうか。今それをしたところでまたぐちぐちと何か言われそうだから何も言わないが。
「あら、二人とも。もう行くのね」
アンがエプロン姿で玄関まで見送り来てくれる。そして、手に持った風呂敷で包んだ包みを俺たち二人に渡す。
「これは?」
「二人にお昼ご飯よ。今日の試験、必ず無事に帰ってきてね」
「分かってるよ」
「よし、それじゃあ二人ともいってらっしゃい」
「うん、行ってきます」
アンにお昼ご飯とともに見送りの言葉を掛けられ、俺たちはバルセルクまでの馬車が待つガジャのところまで向かった。
「おう、二人とも早かったな。馬車が来るまであと10分くらいだろう。それまでうちの中で待っておれ」
ガジャの家の扉をたたくと、ガジャが出迎えてくれた。馬車の到着まではもう少しかかるそうだ。家の中に入ると、ペティーが居間にちょこんと座って待っていた。顔色は昨日よりかはよくなっているようだが、まだ本調子というわけではないようだ。
「ペティー、具合の方は大丈夫?」
「うん、まだちょっと熱があるみたいだけど、これくらいなら大丈夫」
「もし、協力できることがあるなら俺たちを頼ってもいいからな」
「うん、その時は頼りにしてる」
ペティーのいつもよりふわふわした口調が、この先の試験のことを思うと不安材料だが、ペティーなら大丈夫だろう、という謎の信頼もあった。そこからは、お互いの不安を和らげるように試験とは関係ない雑談をしていた。少しでも試験のことは考えないようにしようという俺たちなりのせめてもの悪あがきだった。そして、あっという間に時間が過ぎるとコンコンとガジャの家の扉が2回ノックされる。
「こんにちは、バルセルクからの御者です。お迎えに上がりました」
バルセルクからの馬車が到着し、俺たちもあわてて支度をして、改めて外に出る。ガジャの家の前には、2匹の馬とそれを引く一つの小部屋ほどの大きさの荷台が取りつけられた馬車があった。
「ここにいる3人をよろしく頼む」
「はい。承知しました」
そういうと御者は出発までの準備を手早くし始めた。その間、ガジャは俺たちの方に振り返る。
「ワシが助けてあげられるのはここまでじゃ。あとはワシが教えたことを精一杯試験で発揮するんじゃ。決して無茶はするんじゃないぞ」
「分かってるよ。アンにも同じこと言われた」
そういうと、ガジャは俺たち3人を呼び寄せると俺たちを思いっきり抱きしめた。ガジャの大きな体は、俺たちを抱きしめるには十分なほど大きかった。
「自信は持っていいが、決して自分の実力に驕ってはならんぞ。よいな?」
そういうと、ガジャは俺たちをそのまま解放した。そして、御者も準備ができたのか、俺たちのことを呼んだ。
「それじゃあ、絶対合格してくるから、待っててね!」
「あたしももちろん合格してくるわ」
「わ、私も...」
そうガジャにそれぞれの思いを伝えると俺たちは馬車に順番に乗り込み、ウィットネスを後にした。ずっと手を振り続けるガジャを、俺たちもガジャが見えなくなるまで手を振り続けた。




