2-8章 明日の岐路
「いつの間にか外にいたのかよ」
「まあね。ペティーから話を聞いてたから」
俺はひとしきりペティーとの会話を終えてから部屋を出た。気づいた時にはマリンとガジャはペティーの部屋からいなくなっていた。
「...見てないだろうな」
「見てはないけど聞こえていはいたわよ。その年にもなってみっともなく泣いちゃって」
くすくすとマリンは口を押えて笑う。あの無様な姿を見られなかったのは不幸中の幸いだったが、泣いている声を聞かれているのはやはり恥ずかしい感じがする。
「なんて、冗談よ。ペティーに大切にされてるだなんて男冥利に尽きるじゃない。もっと自信持ちなさいよ」
「そんなことないよ。むしろペティーにもっとふさわしい男になれるようにもっと頑張らないと」
「あんたは本当に自己肯定感が低いわね」
階段を下りながら、マリンが呆れた声で肩をすくめた。マリンが俺との軽口をせずに素直にほめることは少し新鮮な気がした。
「おー二人とも。用はすんだのか」
「ガジャも俺の無様な姿を見た?」
「いや、マリンに部屋を追い出されるなり、下の階に追いやられたわ。全く年寄りをのけものにしよって」
ガジャはムスッとした態度で両腕を組んだ。マリンは俺に向けてこっそりと親指を立てたが、こればっかりはナイス判断だ。
「それで、ずっと後回しになってたんだけど、明日の予定は?」
「ああ、そうじゃったな」
ガジャは組んだ腕を解くと、コホンと一つ咳払いをして話始めた。
「明日は明朝、ワシのところに来てくれ。バルセルクまでの馬車をワシが手配した。金のことなどは考えなくてよい。それに乗ってあとは馬車に乗っていけばバルセルクまで御者が連れていってくれるだろう」
「ペティーは明日の様子次第ってことね」
「その通りじゃ」
マリンが気にするように、明日のペティーの病気の具合次第で明日の試験の合否も変わる。どうにかよくなってほしいばかりだ。
「何か持っていくものとかある?」
「特にはいらんじゃろ。サトルたちのところに来た試験要項にも持ち物は特に書かれていなかったじゃろ」
ガジャの確認事項に俺たちも首を横に振る。バルセルクからアンの家あてに今年のバルセルク魔法学校の試験要項が送られてきたが、特別気にするようなことは書かれていなかった。強いて言うなら、試験内容が当日に発表すると書いてあった点である。
「それじゃあ、今日は早めに寝るんじゃぞ」
「わかった。それじゃあまた明日」
俺たちはガジャに手を振って、ガジャの家を後にした。時刻はちょうど黄昏時で、日が後数分で沈みかける頃であった。
ウィットネスに戻ると、自分の家への帰路の途中、アンの家から意外な人物がでてきた。
「あら、サトルちゃんとマリンちゃんじゃない」
「こんにちは、ロッキンさん」
彼(彼女?)は、絶妙なポージングで俺たちのことを見まわすと、
「二人はどこで何をしていたの?」
「俺たちは試験のことについてガジャさんたちと話を。ロッキンさんはアンの家で何の話をしてたの?」
「それは、サトルちゃんとマリンちゃんのバルセルク魔法学校での試験楽しみだわね、って話をしてたの。あたしが昔受けたから少し気になってたのよ」
「へー、そうなんだ」
ロッキンがバルセルクを受けていたのはかなり意外だったが、そうなるとかなり魔法の腕はかなりいいのだろう。
「そんなこと言って、アンとあんなことやこんなことの話をしてたんじゃないの?アンもまだ結婚してないんだし」
マリンがさっきの話題をほじくり返すように、ロッキンを言葉の針でつんつんとつつく。
「違うわよ。あたしとあの子はそんな関係じゃないわ」
「そう、まあそういうことにしておくわ」
ロッキンに優しく否定されたので、マリンはそれ以上追及することをあきらめた。ロッキンはそのまま帰るのかと思ったが、一度立ち止まり、俺たちに振り返ると、
「明日頑張りなさいよ。あんたたちが無事試験を乗り越えて、一年祭を迎えられることを楽しみにしてるわ」
そう言い残すと、今度こそロッキンはは前を向き、自身の帰路へ足を進めていった。




