2-7章 道違えて
俺とガジャは狭い階段を一列に並んで上っていく。ガジャによると、2階には右手前がガジャの自室、左奥がペティーの自室の計2室しか部屋がないらしい。階段を上りきると、奥の部屋からマリンとペティーが話しているのが聞こえてくる。内容までは聞きとることができない。ペティーの部屋の前で立ち止まると、部屋のドアを2回たたく。
「はーい」
マリンの声が聞こえると、しばらくして、ペティーの部屋のドアが開かれる。
「あんた何やってたのよ」
「俺はガジャさんと下で少し話を。お前はいきなり飛び出してペティーの部屋に行ってたのか?」
「あったり前でしょ。ペティーが風邪なんて引いたら心配するにきまってるじゃない」
二人でいつもの軽口をたたきあって、マリンはすっと自分の体を引いた。すると、目の前では部屋着姿の顔がほんのり赤いペティーがベッドに横たわっていた。彼女は上体を起こすと、おでこにのせられていた白い布を両手でキャッチする。
「サトル君。心配かけてごめんね。マリンちゃんにはさっき謝ったんだけど」
「いや、そんなに謝ることじゃないよ」
俺はペティーと目線を合わせるために部屋の床に腰を下ろす。ペティーの部屋は、俺の部屋と同じくらいの大きさに、ベッドの横に縦に長い窓があるだけのシンプルな部屋だった。その唯一の窓からの夕日が、彼女の掛布団を照らしている。
「明日の試験までには絶対に治すから」
「そんなに無理もよくないよ。体調を万全にしてからでも遅くないよ」
「うん分かってる」
ペティーはこくりとうなづくと、心配そうに俺の後ろに視線を合わせる。正確には、マリンかガジャに視線を合わせたと思うのだが。そうすると、ペティーは窓際においてあったものを手に取った。それは、周りが青い花であしらわれた綺麗な花の冠だった。
「これは?」
俺は思わずペティーの手にあるものについて訊ねる。これは確かマリンがペティーに送りたい、と相談したものだったはずじゃ...
「これちょっと早いけど、一年祭での贈り物。サトル君に着けてほしくて頑張って作ったの」
「じゃあ、昨日雨の中外に出たのってまさか...」
俺が口に出す前に、ペティーはその言葉を予測できていたかのようにうんと頷いた。俺はその瞬間、ペティーの体を思いきり抱き締めた。ペティーは突然の俺の行動に目を丸くしていた。
「...サトル君?」
「なんで、こんな無茶なことをしたんだ」
俺なんかのためにあの豪雨の中、震える思いまでして花を取りに行った理由が俺にはわからなかった。彼女が俺にそこまで尽くしてもらう理由はないはずだ。しかし、ペティーはゆっくりと俺の背中に手を回すと、
「ううん、ただの贈り物だけじゃない。サトル君は今までずっと殻に閉じこもっていた私に、色々な世界を見せてくれた恩人なの。だから、ありがとうの意味も込めて作ったの」
「そんなに、俺は、恩人なんていわれるほど、君に何もしてあげれてないよ」
「それは違うよサトル君」
ペティーはすぐに俺の言った言葉を、かぶりを振って否定した。
「私のギフトについての悩みとか、魔法のことで悩んだとき、いつもサトル君は一緒に悩んで答えを見つけてくれた。サトル君にとってはとるに足らないことだったかもしれないけど、私はサトル君のそういうところに救われてた」
ペティーは俺に対して過大評価しすぎだ。悩んでる人に助言をして、困っていたら一緒その問題について考える、そんなものは当たり前のことだった。それだけのことで、明日が入学試験だとわかってこんな行動をしてしまうほど、俺はできた人間じゃない。
「あ、それと最後にサトル君に言いたかったことを言うね」
そういうと、ペティーは布団の上に置いてあった花の冠を手に取った。そして、
「サトル君のことが好きです。私の愛を受け取ってくれませんか?」
そういって、俺の頭に花の冠をそっとのせた。俺はその瞬間、涙腺が崩壊してペティーの胸の中で男泣きをした。自分はペティーにとってふさわしい男なのか。俺はペティーをしあわせにしてやれるのか。そんなネガティブな未来の不安を打ち消すほど、ペティーに言われたことをかみ砕くには、俺の心の容量は大きくはなかった。




