2-6章 雲行き
ついにバルセルク入学試験前日を迎えた。今日はその最終日もかねて、ガジャとの当日の流れなどを軽く打ち合わせるつもりだった。そのために、今日も今日とてガジャの家まで来たのだが、
「「ペティーが熱を出した!?」」
ガジャが出迎えてくれるなり、俺とマリンに伝えたのはペティーが風邪をひいたという驚きの内容だった。試験前日に熱を出すなんて、かなりの不運に見舞われている。ペティーは明日までに治るのだろうか。
「ガジャ、明日までにペティーの熱引くの?」
「さあ...明日になってみないとわからん」
「治癒魔法ではどうにもできないの?」
「治癒魔法は一般的に、傷や負傷と言った外科的な治療には抜群の効果を発揮するんじゃが、病気とかの内科的な治療には、あまり向かないんじゃ。それがたとえ、熱とかの簡単に治療できそうなものでもな」
「そんな...」
頼みの綱であるガジャでもお手上げとなると、素直に安静にしておくしか方法はないだろう。
「なんでこんな時に熱なんか出したんだ?」
「実はそれが...」
俺達はガジャから昨日のペティーの様子についての話を聞いた。なんでも、ペティーは昨日の豪雨の中、意を決したように体中に厚着をすると、
「ちょっと外に行ってくる」
と言ったらしい。こんな豪雨の中に外に出るのは危ない。そうガジャも止めたようなのだが、ガジャの制止を振り切って、ペティーは外に出ていったらしい。数時間後にペティーは足がよれよれの様子で帰宅してきて、全身が寒さで震えていたらしく、すぐに風呂に入らせて、今までずっと寝込んでいたらしい。
「その時、ペティー何かを持ってなかった?」
何でそんなことを聞くのかと疑問に思ったが、ガジャは少し首をひねると、思い出したかのようにうなづくと、
「そういえば、何か花のようなものを抱えておったな。寝かせた時も窓際にそれを大事そうにおいて、「これには触らないで」って言っておったな」
それを聞くと、マリンははじかれたように、ガジャの家に入っていった。俺とガジャは背中を見送ると、
「とりあえず、サトルもうちに入れ。最後にペティーにも顔を見せて帰ってくれれば、ペティーも喜ぶじゃろ」
そういって、扉を開けると俺をそのまま家に招き入れた。
「ペティーはワシが初めて会った時から、気弱そうな子だったんじゃ」
「え?ペティーってガジャの実の娘じゃないの?」
机を挟んでガジャと向かい合って座った俺に、ガジャはそう話した。確かに年齢はペティーとガジャは親子のようには見えないが、その妄想はどうやら杞憂ではなかったらしい。
「ペティーは遠い昔、ワシの亡き友人から引き取ってきた子なんじゃ。実の父と母親が亡くなった直後は、あの子は毎日抜け殻のようにただ生きていただけじゃった」
ペティーにそんなつらい過去があったことには驚きだったが、俺は黙ってガジャの話を聞く。
「あの子は体が弱いところもあったんじゃ。だから、ワシはあの子をできるだけいろんなところに連れて行ってあげたんじゃ。はじめは無表情じゃったペティーも日を追うごとに笑顔が増えていって、ワシもとても嬉しかったんじゃ」
遠い日を思い浮かべるように、ガジャは少しだけ口元に微笑を作る。
「いろいろなところを旅をして、最後にたどり着いて、生活を始めたのが、ウィットネスなんじゃ」
「まあ、ここは落ち着いてるし自然も多いから、体が弱いペティーならかなり最適な場所かも」
体が弱い子供は、自然の多い場所で生活すると、都会とは違う新鮮な空気を毎日吸えるため、ぜんそくなどにも効くとどこかで聞いたのを思い出した。
「それでも、あの子は引っ込み思案なところがあったから、なかなか友達もできなかったんじゃ。そこで現れたのが、お前さんたちだったんじゃ」
そんなたいそうなものではないと思うのだが、ガジャ視点だとどうやらそういうわけでもないらしい。
「毎日サトルから教わる魔法の話や、ペティーと一緒に作ったぬいぐるみや趣味の話を、嬉しそうに話をしてくれるのを聞くだけでワシもうれしかった。男手一つで育ててきたから、ペティーにはいろいろ苦労を掛けてきたからの」
「そんなことないよ。きっとペティーもガジャさんにここまで育ててもらって感謝してると思うよ」
「そうじゃとワシもうれしいのう...」
嬉しそうに、ガジャは自分のあごひげをさわると、よっこいしょと言って立ち上がる。
「そしたら、最後にペティーに顔を見せてやってくれ。そしたら、風邪がうつると危ないからサトルたちもそのまま帰るんじゃ」
「わかった」
そういって、俺たちはペティーが寝ている2階へと足を運んだ。




