2-5章 大雨
バルセルク魔法学校入学試験まで残り二日となった。入学試験に対する緊張感とほのかな高揚感が高まっていく中、今日はあいにくの大雨だった。降りしきる雨が俺の目の前の窓をタコ殴りにして、今にも窓をぶち破ろうかという勢いである。あいにく、この世界では天気予報などという大したものがないため、天気というのは、当日のその時間、あるいは空の様子からの予測からでしか判別することができない。
「試験前だっていうのに、何もできない...」
俺はじれったい感情を抑えながら、何度も読み返している「基礎魔法概論」を熟読している。これは、はるか昔に、魔王と戦ったとされる"大賢者"エゲリアが執筆したとされる、世界最古かつ最も多くの魔法師が呼んでいる魔法書である。この本は正確には「基礎魔法概論」を多くの魔法研究家が改編をかさねて、俺のような年齢の人でもわかるように、新たに書き起こされた本である。ガジャ曰はく、「基礎魔法概論」のオリジナルは、
「ワシでもすべてを理解することができない」
と言わしめるほどの難解な魔法書であるらしい。俺もいつかはその魔法書のオリジナルを読んでみたいが、現在オリジナルの「基礎魔法概論」は、どこかへと消えてしまったらしい。まあ、"大賢者"なんて、はるか昔の存在であるのだから、オリジナルがすでに無くなってしまったのも無理はない話だった。
「トントン」
俺が暇を持て余していると、扉をトントンと叩く音が聞こえてきた。
「はい」
俺は椅子から飛び降りると、ドアノブを回して扉を開けた。
「なんだ、マリンか。いつもこういうのは律義だよな」
「なに?ノックもなしに入ってきてもいいわけ?」
「まあ、そうだな」
この世界ではエロ本やら、際どい写真集なんてものは存在しないため、そういう意味では別にみられて困るものはない。娯楽に乏しいのは玉に瑕だが。
「あっそ。そんなことより」
マリンは腕を組むとふてぶてしい態度で俺をにらみつける。
「あんた、一年祭のためのプレゼントは用意したの?」
「プレゼント?」
一年祭には贈り物を送りあう文化があるのだろうか。いかんせんここに来たばっかで、そんなことは初めて聞いたのだが。
「一年祭では親しい人に贈り物をあげる文化があるらしいの。それを準備したかって聞いてるの」
「いや、してません...」
マリンに素直に用意していないことを伝えると、マリンははあ、とため息をついた。
「じゃあ、あんたどうすんのよ。あたしはとりあえずいくつかは用意したわよ」
「何用意したんだ?」
「それは秘密よ」
堂々と秘密にすると言われれば。俺もそれ以上追求することができない。何を準備するのか迷っていると、俺はあることをひらめいた。
「そうだ。バルセルクの方に行ったときにお土産でも買っていったらどうだ。アンにお小遣いをもらう羽目になるけど」
「なるほどね...まあ、あんたにしては無難な選択ね」
「俺のことを何だと思ってるんだ...」
先日ルークたちとの会話をしたとき、バルセルクの店についての話をした。リックさんの話によると、バルセルクは大陸のあらゆる警備や統制を行っているため、資金が豊富にあるらしい。それで、かなりおいしいお店やお土産屋さんも数多く存在しているという話だった。
「そういえば、今日は外出しないのか?」
最近、魔法の練習の時以外でも外出しているマリンにそう聞くと、
「当たり前でしょ。こんな大雨の日に外で歩く馬鹿がどこにいるのよ」
「まあ、それもそうか」
確かに、こんな大雨の中で歩く人間なんているはずもなかった。俺は、いらぬことを聞いてしまったようだ。
「用はそれだけ、じゃあ」
そういって、マリンは本当に用件だけ済ませると部屋を出て行った。しかし、バルセルクでのお土産どうしよう、俺はあっちでのお土産を何にしようかとぼんやりと考えていた。




