2-2章 好きな花
「マリン、遅いわねー。何やってるのかしら」
テーブルに今日の夕食を並べながらアンがそうぼやいた。日が沈んでから大分たち、夕食の時間になってもマリンは帰ってこなかった。マリンはああ見えて、門限とかはちゃんと守るタイプなのにこういうのはとても珍しかった。
「まあ、さすがにもうすぐ帰ってくるよ」
こんな小さな村で男に襲われるなんてこともあるわけないだろうし、特段心配することもないだろう。そう思っていると、玄関の扉が思い切り開かれ、マリンが帰ってきた。
「ごめん。遅くなった」
「マリン。こんな時間まで何やってたの?遅くなるならなんか言わないと」
「ちょ、ちょっとペティーのところに会話が弾んで長くいすぎちゃったのよ」
マリンの言葉は彼女にしては歯切れの悪いものだった。朝に出かけるときも様子がおかしかったが、いよいよマリンが何かを仕組んでいる気がしてならなかった。
「まあ、いいわ。ご飯が冷めないうちに早く食べちゃいましょ」
アンがやれやれと肩をすくめると、みんなで食卓を囲んで夕食を食べ始めた。
夕食後、いつもの日課の魔法書を読んでいると、扉をコンコンとノックする音が聞こえる。
「はいはーい」
俺はテーブルの上に魔法書を置くと、扉まで歩いて行って戸を開ける。すると、そこには寝間着姿のマリンが立っていた。
「ちょっと、いいかしら」
「お、おう」
俺に用事があるのか、マリンが俺の部屋に訪れたようだった。普段こんなことはあまりないのだが、俺はとりあえず、マリンを自分の部屋のベッドの上に座らせ、俺は自分の椅子に座った。
「あんた、何の花が好きなの?」
「...はい?」
唐突の脈略のない質問に俺は一瞬呆気にとられる。何で花のことなんか俺に聞いてくるのだろうか。
「何で花のことなんか聞いてくるんだ?」
「え?ほ、ほら、もうすぐ一年祭っていう行事があることはあんたも知っているでしょ?その時にペティーに花の冠をお互いプレゼントしよう、って話になったのよ。あんたいろいろ物知りだから、あんたにアドバイスをもらおうと思ったのよ」
「別に物知りなわけではないんだけどな」
俺は自分が元の世界にいたころのことを反芻する。俺がまだ、子供のおもちゃで遊んでいたような年頃、俺の家には赤色のバラが家のあちらこちらに飾られていた。それもかなりの数のバラをまとめて花瓶に入れて、いたるところに飾られていた。バラの赤色は目に留まるので、子供のころながらしっかりと覚えていた。
「...バラなんかどうだろう。赤くてきれいだと思うんだけど」
「バラって、あの棘のあるあのバラのこと?頭にかぶるものなのにそんなものつけてたら危ないじゃない」
「た、確かにそうだな」
確かに、頭にかぶる被り物なのに棘のあるバラはやや不適切だったのかもしれない。俺は今度は、自分の好きな色から元居た世界の花を連想した。
「やっぱり、アジサイかな。落ち着いた雰囲気のアジサイは、かなりペティーに似合うと思うよ」
ペティーの可愛らしい雰囲気と、アジサイの落ち着いた色合いは、絶妙にマッチしていて、ペティーに似合うと思って、俺はアジサイを推薦した。
「アジサイ、アジサイね。わかったわ。ありがとう」
アジサイという言葉を反芻しながら、マリンは俺に礼を言うと俺の部屋を出て行った。一年祭の贈り物としてペティーに送る花の冠。俺は勝手にアジサイの花の冠をつけているペティーの姿を妄想して、その日は眠りについた。




