1-9章 あなたに神の加護があらんことを
早朝、俺は朝早く目を覚ます。昨日教えてもらった魔法の勉強を早く教えてもらいたかったため、昨日の夜はあまり眠れなかった。ベッドから俺は飛び起きると、すでにアンは起きていたのか朝食を作るために台所に立っていたところだった。
「あらサトル、おはよう。今日はずいぶんと早いのね」
「早くガジャのおじさんのところに行って魔法の特訓をしたいんだよ」
「そうなの。ガジャのおじさんは早起きだけどさすがに早すぎるから、朝ごはん食べてから行った方がいいわね」
「わかった。そうするよ」
俺は素直にアンの指示に従い朝食を手短に済ますと、さっさと服を着替えてガジャの家に行く準備をする。
「じゃあ行ってくるね」
「ん...ちょっと待って」
リビングのほうからまだエプロン姿のアンが小走りにこちらに近づいてくる。そして俺の目の前で止まると、
「あなたに神の加護があらんことを」
そういって、俺の頬に軽いキスをした。俺は急に顔を真っ赤にして、アンのもとから逃げるように離れる。
「きゅ,,,急にどうしたのさ。そんな新婚ほやほやのおしどり夫婦みたいなことして!?」
「ん?」
驚く俺とは対照的にアンは怪訝そうに俺のことを見つめる。
「あなたの街ではこんな挨拶ないの?この村では神様の祝福を受けられるようにこういう挨拶をしてるんだけどね」
それを聞いて俺は合点がいく。つまり日本でいう「いってらっしゃい」、「いってきます」みたいな、英語でいう「Hello」みたいなことだろうか。そういったものがこの世界にもあるんだなと、俺は納得することができた。
「でも,,,」
そう言葉を区切り、アンは妖艶な目でこちらを見つめながら、
「サトルだけよ。ほっぺたにキスなんてしてあげるのは,,,」
アンの今までにないほどのなまめかしい物言いに、俺は今度こそアンの家を飛び出した。あれは俺に好意があってあんな言い方したのだろうか。それとも、子供の俺をからかっているだけなのだろうか。
「どっちみち、今の俺には冷静に判断できないな」
ひとまず、俺の中での一応の結論を整理できたため、気分転換もかねて俺は村の様子を見ながらガジャの家を目指すことにした。こんな朝早くの街を見るのはなんだか新鮮だった。
「おはよう。サトル。今日はずいぶんと早いのね」
「よう、サトル。今日は早いな。何?ガジャさんの家で魔法の特訓?だったらこいつを持ってきな腹減ったらこいつでも食ってくれ」
朝早くから店の支度をしてる村の人々からこんなにやさしい言葉をもらえたことは正直にうれしかった。お世辞抜きにこんなに恵まれている村は他にはないのではないか、と思うほどである。
「...ってーな」
お互い前方不注意だったのか前を歩いいていた誰かとぶつかる。声の感じは俺と似たような感じだった。
「って...どうもすいません」
「ったく、気をつけろよ。どこ見て歩いてるんだよ」
立ち上がって相手の顔を見るといかにもガラの悪そうな子供が3人俺の目の前に立っていいた。声の通り、年齢は俺と同じくらいだったが、いかにもこの村の雰囲気とかけ離れている子供だとは思った。
「どうもすいません。それでは...」
そつなくその場をやり過ごそうと、俺は適当にその場を切り抜けようとする。すると俺は腕を強く引かれ転びそうになる。
「何ですか。俺は急いでるんだけど」
心底めんどくさそうに、俺は少し語気を強めて俺は相手に対応する。しかし、相手のほうが人数が多いためか少しもひるむような様子は見せず、
「人にぶつかったらまずごめんなさいだろ。お母さんに習わなかったのか」
「俺は謝ったろ。それに、ぶつかったのはお前も一緒なんだからお前も俺に謝る義務があるだろ」
「義務とかそんなの知らねーよ。村長の息子のこの俺にぶつかったんだから土下座して足の裏ぺろぺろなめるくらいして見せろよ」
明らかに調子に乗っているのか、後ろの二人もけらけら俺のほうを見て笑っている。大方、村長の息子とか呼ばれている子のガキのおこぼれをもらっている腰巾着かなんかだろ。
「とにかく、俺はもう行く。じゃあな」
3人を無視するように俺は立ち去ろうとしたが、さっきより強い力で俺は倒される。しかし、さっきとは違い、俺には手も足も触れていなかった。
「チッ、魔法か。雁首並べて弱い者いじめとかみじめだと思わないのか」
「よくわかんねー言葉使ってんじゃねーよ。今だ、お前らやっちまえ」
村長の息子の一声を皮切りに俺は3人から殴る蹴るの暴行が始まった。大人の俺であれば非力だったとはいえ、ガキの相手ぐらい余裕ですることができたが、今の俺の体では亀のように丸まって攻撃を絶えることしかできなかった。つくづく、どの世界でも権力の使いかたをはき違えた大バカ者は存在するのだなとこの村の中でさえ、光と闇の部分は存在するのだなと悲しくなってくる。しかし、そうも言ってられないほどぼこぼこに痛めつけられいた俺は思いついた。
"俺も魔法でこいつらに対応するしかない"
そう思い、俺は奴らを吹き飛ばすイメージをする。タイコン一個持ち上げることも難しかった俺が、子供3人を吹き飛ばすことができるのだろうか。否。
「やるしかない」
心の中で、再度イメージを構築し、体全体から魔力がみなぎっていくことがわかる。それを感じたのか3人は慌てて俺から離れ、距離をとる。
「失せろ、クソガキ」
俺は、弾き飛ばすイメージで彼らに向け魔力を放った。
「...」
しかし、俺の魔法は不発に終わったのか何も起こらなかった。そもそもぼこぼこにされていたため、魔法に使う体力が俺にはなかったのかもしれない。
「な,,,なんだ。ハッタリかよ。ビビらせやがって」
そういって、もう一度俺のほうへ慎重に向かってくる。今度こそ終わったな、そう覚悟していた時、ガキどもとは違う方向から足音が聞こえてくる。姿は見えなかったが聞き覚えのある声がした。
「おい、お前ら。これはどういうことじゃ」
声の主は毅然とした態度で、ガキたちに向かって声を発する。明らかに敵意を持った声で放たれた声は、ガキどもを黙らせるのには十分だった。
「おい、まずいぞ。早く逃げるぞ!」
ガキどもは一目散にその男と反対の方向に逃げていく。男は倒れている俺の頭上に顔をのぞかせ俺のことを抱え上げると、
「とりあえず、わしの家に行くぞ。話はそれからじゃ」
そういって声の主---ガジャは俺のことをおんぶして家に戻った。魔法師とは思えないほどがっつりしたその体格からは確かな人のぬくもりを感じることができた。




