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僕の娘は魔法使い  作者: 京野 薫
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異世界からのアリス

「では、お大事にして下さい」

受付の女性の耳に心地よい声を聞きながら、僕「春山はるやま 翔太しょうた」は小児科のクリニックを出た。

やれやれ、薬で住んで良かった。

昨夜の熱にはビビったが・・・

腕には玉のような可愛い赤ちゃん・・・血は繋がっていないが僕の娘だ。


妹夫婦が突然の事故によって亡くなったのはほんの2週間前。

その悲しみも癒えない間に、二人の間に生まれたばかりの生後3ヶ月の女の子「明日香あすか」をどうするか、と言う問題が起こったので、僕は迷わずこの子を引き取る意思を伝えた。

役所の人からは乳児院を進められたが、僕の気持ちは変わる事は無くそのまま戸籍等の手続きも済ませた。


小さい頃に両親を亡くしてからずっと児童養護施設で二人で肩を寄せ合い生きてきた。

そしてやっと幸せを掴もうとした矢先の事故・・・

そんな妹の残した忘れ形見。

この子を絶対に幸せにしたいと思うのは当然だ。

それに、施設生活も良い先生方や仲間がいたり楽しいことは沢山会ったが、それでも拭えない寂しさや辛さがあった事も知っている。

家に帰った僕は明日香に向かって言った。

「なあ、明日香。お前はお兄ちゃん・・・じゃない、パパが絶対幸せにしてやるから。京子の分まで」

ダメだ。妹の名前を言うとつい・・・

じわりと滲んだ涙を明日香を抱えたまま、片手で拭う。

その時。

バランスを崩した明日香が僕の腕から・・・落ちた。

しまった!

慌てて手を伸ばすが間に合いそうに無い。

頭が真っ白になった僕は、その直後さらに脳が硬直した。

床に叩きつけられているはずだった明日香は・・・宙に浮いていた。


え・・・?

僕は頭を振って、両手で顔を覆った。

ダメだ、やっぱり役所の人に相談しよう。

僕は・・・無理だったようだ。

京子の事故で知らない間に頭がおかしくなってたらしい。

赤ちゃんが浮いている幻覚を見るなんて・・・

5分ほどして、恐る恐る両手の指の隙間から覗いてみた僕は、思わず息の抜けたような悲鳴を漏らした。

明日香はまだ浮いていた。それに留まらず何やら両手をウネウネ動かしている。

それが終わった明日香は、フワフワと浮かびながら近くのソファに移動し・・・ポトッと落ちた。

「あ、明日香!大丈夫か」

僕は混乱しながら明日香に駆け寄った。


「ああ、大丈夫じゃ。浮遊魔法が思ったより長く効かぬようだが、あの程度なら問題ない」

「あ、そうなんだ、良かった・・・って、ヒイイ!」

「うるさい!ここしばらくずっと聞いたことの無い言語ばかりでうっとうしかったから、やっと言語共有の魔法が使えてホッとしてたのに、最初がこんなやかましい奴だとは」

「た・・・助けて!」

「はあ?このわしがいるのに助けてとは・・・貴様、正気か?この救国の英雄に向かって」

何を言ってるのか全く分からない。

「あ、明日香!どうして・・・なんで!」

思わず明日香を抱きかかえた途端、赤ちゃん特有の甲高い声で怒鳴られた。

「気安く触るな!わしを『アリス・コルデル』と知っての狼藉か?きさま、春山翔太と呼ばれておったな、無礼者が!」


やっぱり頭がおかしくなってるらしい。

ファンタジー小説は京子が好きだったので、話を合わせるためによく読んでいた。

特に彼女は異世界転生物が大好きで、お勧めの作品を教えてくれていた。

それが、こんな妄想になってしまうなんて。

「ゴメン、明日香。パパ、頭がおかしくなってるらしい。今から役所に行こう。乳児院に行ってもらうよ。パパは・・・病院に行ってくるから、多分ずっとお別れだ」

「ヤクショ?ビョウイン?ニュウジイン?なんじゃそれは。お前・・・翔太で良かろう。お前の頭がおかしいことは同意するが、その表情だとあまり愉快な所ではないようじゃな、その『ニュウジイン』と言うのはなんだ?そもそも、ここはシャドラーゼではないな。言語が通じぬとは。どこなのだ?こんなけたたましくて眩しい街は見たこと無い」

一気にまくしたてる明日香の声を聞きながら・・・って言うか、赤ちゃんで「まくしたてる」って?

いや、それよりもだ・・・しゃど、なんだって?

まあいい。

僕の頭がおかしくなってるなら「毒食らわば皿まで」だ。とことん合わせてやる。

「乳児院。生まれたばかりの赤ちゃんを預ける所。親が居なかったり、育てる能力の無い親の元に産まれた赤ちゃんが集まってる。君のような赤ちゃんを」

「おい、ちょっと待て。赤ちゃんとは何のことだ」

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