猫たちの世界
行ってみたいですか?
猫たちの世界が
このアスファルトのしたにあるんじゃないかって
あたしは黒いコーティングを剥がして
地面を掘ってみた
猫たちの世界が
あの空のうえにあるんじゃないかって
あたしはでっかい扇風機をまわして
雲をかきわけた
猫たちの世界が
どこかの海のむこうにあるんじゃないかって
あたしは方舟をつくるため
アイスの棒をあつめはじめた
だけど いくらさがしても
猫たちの世界はみつからなかった
猫は世界じゅうにたくさんいるのに
かんじんの 猫たちの世界はみつからなかったんだよ
理由はわからない
なんで どこにもみつからないの?
猫たちに夢中なひとたちはたくさんいて
かつての大航海時代みたいに 新世界を発見して
ねこたちの世界と交易をもちたいって
のぞんでるひとたちだって たくさんいるはずなのに
そんなひとたちは いまこの瞬間にも
なにかに とり憑かれたように
血走った目に くまをつくって
ねこの世界をさがしているはずなのに
きっと 猫たちの世界は滅んでしまったんだ
綺麗なお城を建てられなかったからか
怖いドラゴンに ほろぼされたからか
りっぱな王様猫がいなかったからか
名物料理の人気がでなかったからか
そんなふうに希望を打ち砕かれた顔してたら
うちの猫がおひざにのってきて
にゃあって鳴いてくれた
あぁ! なんてこと!
お馬鹿なあたしは それで やっと真実に気がついた
猫たちの世界はちゃんとここにあるじゃないか
でっかいお城なんか建ってなくったって
特等席のおひざをいつでもさしだせば
猫たちは そこがじぶんの世界だって
満足げな顔をしてくれる
そうかんがえると あちこちに
猫たちの世界はひろがっていた
こたつのなか ソファのうえ
ダンボールのなか ビニール袋の内側
もしも猫たちのお気に召せば
そこはやっぱり猫たちの世界
あたしは とっくに猫たちの世界に生きてたんだ
そして あたしは住人というより その世界のいちぶ
猫たちの世界に生まれてきて
猫たちの世界のいっぽんの柱で
猫たちの世界のいちまいの座布団
あたしはなんて幸せなんだ
猫好きとしてこれほど嬉しい生涯はない
座布団で幸せ♡