気になるあの子のセカイ:双頭の巨人
「記憶の郵便屋」がある街の隙間にひっそりとたたずんでいた。そこで働くヒトメは記憶を無くした青年。青年は精神の世界である「夢世界」を通して依頼者の記億を配達している。その夢のなかでの配達の途中で彼は自分の過去を思い出すが、起きたときにはいつも忘れてしまっていて……。
双頭の巨人
中に入ると、そこには無数の鏡が暗闇に浮かんでいるような、そんな空間があった。どの方向に歩いて行けばいいのかも分からないので、ヒトメはとりあえず前と思われる方向に進む。それからしばらく歩いていると突然後ろから声をかけられた。
「おい、きさま。ここで何をしている?」その声は男と女の声が混ざったようなものだった。ヒトメが振り向くと、男女の身体が混ざったような、双頭の巨人がいるのに気がついた。さらに特徴的だったのは、その巨人の2つの頭はどちらも鏡になっていることだった。そのため顔を見たが、そこにはヒトメ自身が映っていただけだった。
「郵便配達なんだけど、黒髪でツインテールの女の子、知らないか?」
「なんだと!」その巨人は突然声を荒げて言った。
「男も女も関係あるか! その人と呼べ!」
「・・・・・・じゃあその人、知ってる?」ヒトメは巨人の指示に従う。
「まったく、いまの世では男だ女だと妙にわめき立てる。どちらも同じ人なのに、どちらも同じ生き物なのに。」男の巨人は独り言を始めた。一方女の巨人のほうは深く頷いているだけだった。
「でもな、男と女は違う生き物ってのはよく言う話だぜ。」ヒトメは同僚の口の悪い金髪女について考えていた。
「オレが言っているのはそういう話ではない! 人間の尊厳の話をしているのだ! 身体の創りは違えど、男女は平等であるべきである!」片方の女の方はまた首を縦に振って深く納得している様子だった。
「だから男も女も平等なのだ。楽しいことも時には辛いことだって。少なくともわたしたちは平等に生きている!」男の方が誇らしげに胸に手を当てた。
「ねえ、でもさ……。」今まで黙っていたもう片方が初めて喋った。すると一つだった体がするりと二つに分裂した。
「あんたがちっともやらない家事仕事はあたしがやってるんじゃないかい?」
「その分俺は外に稼ぎに行っているだろう。それが平等な分担だって最初に約束したじゃないか!」
「そんなの最初だけでしょ。あんたが思ってるよりね、家事ってのは辛いものなのよ!
いつも一人で毎日同じことをするだけの日々。これがあんたと平等だと思えない! こんなに辛いのに、あんたは遊び呆けて!」
「いや、それは会社の接待と言うやつだろう! 仕方のないことなんだぞ!」
「だいたいあんたはね・・・・・・。」こんな様子で彼らは喧嘩を始めてしまった。しかしそれと同時にヒトメは宙に浮く鏡の一つにツインテールの女の子の影が、映ったのを見逃さなかった。
「男と女ってのは難しいな。」ヒトメはそう呟きながらその鏡の中に脚を踏み入れた。