気になるあの子のセカイ:喋る化粧品たちの門
「記憶の郵便屋」がある街の隙間にひっそりとたたずんでいた。そこで働くヒトメは記憶を無くした青年。青年は精神の世界である「夢世界」を通して依頼者の記億を配達している。その夢のなかでの配達の途中で彼は自分の過去を思い出すが、起きたときにはいつも忘れてしまっていて……。
喋る化粧品たちの門
何秒か経って目を開けると、ヒトメはどこかのホールのなかで巨大な化粧台のようなものの前にいることに気がついた。ヒトメが次の道筋を捜すために辺りを見回していると、化粧台のうえから大きな声が聞こえた。
「お前! 何者だ!?」ヒトメが上を見上げると、そこには犬くらいの大きさの化粧品道具のような形をした生き物たちが彼を見下ろしていた。ヒトメは彼ら一人ずつの目を見た。
「オレ、郵便配達人なんだけど、黒髪ツインテールの女の子のこと知ってるか?」
「知らないね! 」リップの形をした生き物が言った。
「知らない、知らない!」全員が甲高い声を揃えて叫ぶ。
「オレ達は嘘をつくのが仕事なんだ。」先ほどのリップが言った。どうやら彼らのリーダーのような存在らしい。
「いや、正確には嘘と真実を管理するのが俺たちの仕事だ! 真実から嘘を守り、嘘から真実を守るのだ!」
「私の担当は鼻・・・・・・じゃないよ!」
「ぼくの担当は目・・・・・・じゃないよ!」
「おいらの担当は肌・・・・・・じゃないよ!」これに続いていくつかの化粧品が雄弁に話し始めたが、長くなりそうだと思ったのでヒトメは途中で話を遮った。
「あー、悪いんだけど、本当になんか知ってたら教えてくれないかな? 仕事なんだよ。」
「知らない! その子のことなんか知らない!」
「それなら・・・・・・、お前らはその子のこと、嫌いか?」ヒトメがそう聞くと化粧品達は一瞬たじろいで、次々が言った。
「好きだ!」「嫌いだ!」化粧品たちはちょうど半分くらいで意見が別れた。
「なぜ本当のことを言う!? オレたちの仕事は嘘をつくことじゃないのか!?」嫌いと答えた化粧品達が言った。
「その嘘は彼女を傷つけるぞ! 彼女を守るためにオレ達は嘘をついているのではないのか!?」好きと答えた化粧品たちが答えた。その様子を見ていたヒトメは次第に面白くなってきて笑い始めた。
「はは、お前達は優しい嘘つきだな。」
「なんだとー!」化粧品達が声を荒げる。すると先ほどの隊長格のリップが他の化粧品たちに静かにするように怒鳴った。
「・・・・・・そういうお世辞は好きだぜ。真実と嘘を正しく管理しているから。よしいいだろう、気に入った。ここを通してやろう。」
リップが指差したのは巨大な化粧台の鏡のなかだった。鏡に右手を入れてみると、どうやら膜のようになっていて中には入れそうだったので、ヒトメはそのまま体全体を鏡の中に入れた。