気になるあの子のセカイ:言葉の風船
言葉の風船
森に入って少し歩くと、一つの広場に出た。そこでは多くの人々がテーブルを囲んで優雅にお茶をしている。
「でさー! それからね・・・・・・。」
「えー! ほんとなのそれ?!」このような会話がテーブルの上を飛び交っていた。それはなんということはない普通の会話であったのだが、ヒトメは少し不思議に思った。なぜなら話をしている人々の耳から風船のようなものが絶えず出てきているのだ。
そしてその風船には彼らが発した言葉が表面に書かれていた。ただ、どうやらその風船は必ずしも全員に見えている訳ではないようで、そのなかで一人だけ、風船が空に飛んでいかないように必死にそれらを追いかけている小柄な男がいた。彼は抱えきれないほど多くの風船を持っている。
「あいつ、何してるんだろう?」テーブルに座っている男性が走り回っている男を見て言った。
「さあね。変なやつね。」同じテーブルに座っている女性が言った。ヒトメは風船を追いかけている男に話しかけてみた。男の目はどこか疲れているようだった。
「なあ、黒髪のツインテールでドレスを着た女の子、知らないか?」
「黒髪で、ツインテールで、ドレス・・・・・・どれどれ・・・・・・。」そう言って男は自分が持っている風船の束のなかからこれらの単語が書かれた風船を捜そうとしてみたが、風船が多すぎてすぐに見つける事ができない。
「すごい風船の数だな。」ヒトメは驚きながら言った。
「だって、言葉達がかわいそうじゃないか。せっかく生まれて誰かに届いたのに、すぐに耳から出てどこかに飛んでいって消えてしまう。みんなはどうしてそんな風に言葉を無下に扱うことができるんだろう。」そう言ってその男はまた風船を追いかけに行った。そしてお話をしている人々は、また走り回る彼を見て笑っていた。
しかしそのとき、黒髪のツインテールと書かれた風船をヒトメは見つけた。その風船が徐々に遠くに離れていったので走って追いかける。なんとかして風船の紐を掴んだ次の瞬間、風船が破裂してヒトメは目を瞑った。