気になるあの子のセカイ:信心深いクマたち
信仰深いクマたち
トンネルを抜けると、長い一本道に出た。しかしその景色は奇妙であった。道の両側に多くのピンク色のクマたちが正座をして一列に並んでいるのである。彼はとりあえず近くにいたクマの一匹に声をかけてみることにした。クマは鉄の鎖を大事そうに持って、何かをぶつぶつ言っている。
「おい、クマさん。オレ郵便屋なんだけど、この辺で黒髪の大きなツインテールの女の子知ってるか?」ヒトメはクマの目を見ながら言った。
「アイーテオロプーテ、アイーテオロプーテ。そんな人・・・・・・知ってるよ。」
「お! どこにいるんだ?」
「アイーテオロプーテ、アイーテオロプーテ。君も唱えれば教えてあげるよ。」
「は? お前と同じように言えばいいのか?」
「うん。」
「えーと、アイーテ・・・・・・?」
「アイーテオロプーテ。」
「アイーテオロプーテ、アイーテオロプーテ・・・・・・?」ヒトメはとりあえずクマが言っていたことを繰り返したが、何の言葉なのか全く検討が付かなかった。
「いいお唱えだね! 彼女はあっちにいるよ。」そう言ってクマは一本道の先にある森を指指した。
「そうか! サンキュー! ・・・・・・ところでこのアイーテオロプーテってどういう意味なんだ?」
「さあ? 僕も知らないよ。でもね、これを唱えていれば幸せになれるってみんなが言うんだよ。あの子もよくここへ来て一緒に唱えるんだ。」
「ふーん。でもさ、お前の言うその幸せってなんなんだ?」ヒトメは受取人のことよりも今はクマのことが気になった。彼は夢の世界の住人にいろんなことを聞いてみるのが好きなのだ。ヒトメに聞かれてクマはえっ、と声を漏らす。そして少しうなった後に答えた。
「お唱えしていることかな? だってボクはいまお唱えをしているから幸せのはずだし、この幸せな状態でやっていることはお唱えだもの。でも、あれ? 違うかな。」
「なるほどな。ま、ともあれ女の子のこと教えてくれてありがとさん。」
「幸せってなんだろう?」クマの頭はすっかり混乱してしまった。そこで見回りしていた他の年配のクマがそのクマの元にやってきて、頭をポカンと叩いた。
「こら! 集中せい!」そう言ってクマは首をかしげながらまたお唱えをし始めた。それを横目にヒトメは道の先にある森の入り口までそそくさと急いだのであった。