8、カーペンター子爵家
そうあからさまにではないけど執事長の態度が変わったので、他の使用人の私への仕え方も変わりつつある。
居心地がよくなって、大変よろしい。
別に威張り散らす必要はないけど、貴族然とした振る舞いが有効ってこともよくわかった。
どの世界でもそうだけど、うつむいた花は踏まれるし、溺れる犬はさらに打たれるわけよ。
私はもちろん、そもそも使用人などに注意を払わない母と姉たちは気付いてもいないようだけど。
父である伯爵はどうかな?
仕事面では有能らしいけど、家庭ではダメ人間なんてめずらしくもないからなぁ。
あれ以来、執事長と御用商人は密かに協力し合っているようだ。
まず、伯爵夫人向けのものは別として、御用商人はあまり高価なものを持ち込まなくなった。
本来は不興をかう行為なんだけど、のらりくらりと姉たちの小遣いの限度額を超える買い物をさせないようにコントロールしてる。
業を煮やして別の商人を呼んだところで、領内を牛耳る御用商人の顔色をうかがわざるを得ない彼らのやることは一緒だ。
魔法のスクロールは順調に集まってる。
別段、家族にも隠してない。
母や姉たちがひらひらキラキラしたものを手にして喜んでる隣で、堂々と購入してる。
姉たちはあからさまにバカにしてくるけど、全然気にならないね。
何ならスクロールを使うところも見せてあげよう。
使い方はいたって簡単。手に持って火をつけるだけ。燃え尽きると魔法を覚えてるって寸法だ。
代々、付与魔法を有するカーペンター子爵家が作ってるらしいんだけど。
こういう仕組みを考えて形にし、さらに比較的安価に販売しだした先々代って天才だな。
私の予測通り、魔法はいくらでも覚えられた。
一日の使用限度についても同様で、あちらを使いすぎればこちらが使えずって具合だけど、いや十分。
便利で、楽しい!
しかし、人間ってのは欲深いもので……
できたら外付けバッテリーみたいなものを誰か作ってくれないだろうか?
駄目もとでカーペンター子爵家に手紙で問い合わせたら、これまた手紙で丁寧な返事がきた。
一族の中にそのような発想をして研究している者おります。
完成したら真っ先にお知らせしましょう。
なんて、いい人たちだ!
研究バカと商売熱心のキメラ臭がプンプンだけど、そこがまたいいぞ。