77、プレゼン
「なぁに、これをくれるの?」
「もちろん返品可ですが。まずはどうぞ私の話をお聞きください」
ジャクリーンは名残惜しそうにしながらも、贈り物をそのままにソファに戻り、聞く体勢をとる。
私はまず、グリム男爵領との新たな領境をマッケンジー辺境伯に認めさせなければならないことを告げ、次いで、このマッケンジー辺境伯の嫡男を名乗る男が、グリム男爵領で行ったこととこちらの対応を包み隠さず語った。
ジャクリーンは途中から扇子で口元を隠して、令嬢として許されるぎりぎりの大笑いだ。
「オホホホッ! クレマンティーヌ、あなたはなんて運に恵まれているのかしら。それとも、その思考と行動力が、あんな当てにならないものすらも引き寄せるのかしらね」
彼女は護衛に合図して、いまだ箱におさまったままの男の猿ぐつわを外させる。
短時間とはいえ牢に入れたことや、拘束されたままの移動が少しは効いたのか、その声はだいぶ小さいけど。
「こ、こんなことをしていいと思ってるのか。俺はマッケンジー辺境伯の嫡男だぞ」
壊れたようにそれだけをくり返す青年を、呆れたようにながめるジャクリーン。
「……まあ、まあ、私もよい歳です。年下というのも悪くないわ。それに、ここまで突き抜けたお馬鹿さんの方が、私のような女にはちょうどよいのかもしれませんね」
状況はわからなくても、何かを感じたのか、いまだ名乗りもしない青年が押し黙る。
「そうそう、そうやっておとなしくしていれば、何もこわいことはありませんよ」
……こっえぇ~! アホを婿に据えて実権をにぎる気満々だ。
「ありがとう、クレマンティーヌ。いまの私にとってこれ以上の贈り物はありません。なんといっても、私は行き遅れ。これ以上の家格の者と縁を結ぶ機会はもうないでしょう。都合の良いことに、かの家では当主に望まれる男子が別にいるとか」
「そのようですね」
「不用品を引き取った私は、さぞや感謝されることでしょうね。しかも、心やさしい私は、愛する夫の母親まで呼び寄せる。たかだか子爵家の次女でありながら、ずいぶんと見栄張りで社交好きという話ですから、息子が跡継ぎでなくなっても侯爵家と縁付くならば否はないはず。さらに王都に招かれた上、猫可愛がりしている息子と生涯ともに暮らせるとなれば、その息子が飼い殺しにされたところで本望でしょう」
「はい。すべてはジャクリーン様の御心のままに」
「フフッ、すべてはクレマンティーヌの思惑のままに。マッケンジー辺境伯にも私がどれほどあなたに感謝しているか、よくよく話しておくわね」
「ありがとう存じます。僭越ながら、我が心の友に心からの感謝を」
あとは細々、私が口出しするまでもない。
ジャクリーンなら、自分を思慕するあまり押しかけてきて、いくら説得しても帰らなかったくらいのことは平気で言うだろう。
「あら、いいわね、心の友。これからも私のことを忘れないでいただきたいわ」
「もちろんです。私はこう見えて筆まめですので」
「そう、楽しみにしているわね。約束よ」
生贄の目が助けを求めるようにこっちを向いてるけど、気のせい気のせい。
私は無事に王都のドーソン侯爵邸をあとにして、馬車の中でぐったり。
いや、どちらかと言えば好きなタイプなんだけど、やっぱり高位貴族に連なる人って独特のこわさがあるんだわ。
私の実家は例外ってやつだろう。
でも、まあ、なんとか思うように事が運んでよかった。
あとは旦那様にお任せして、当分の間のんびりしてもいいかな?
……この世界では、誰も言ってくれそうにないから自分で言おうか。
いいともぉ~!




