74、往路
夕刻になって夫が帰ってきたので、ことの次第を話し、勝手をしたことをわびる。
一応ね。私はこれでいいと思って動いてるけど、それが常に正しいわけもないし、夫の男爵としての思惑も、仕事面での都合も把握しきれてるわけじゃない。
なるべく情報共有するようにはしてるけど、互いに話せないこと、あえて話さないこともある。それが私たち夫婦だ。
「何を言うか、よくぞさばいてくれた。部下たちも大いに感心していたぞ」
「そう言っていただけて安心しました。それで、件のマッケンジーの血縁を名乗る男のことなのですが……」
私が先ほど思い付いたばかりの案について説明すると、さすがに驚いた様子のグリム男爵。
シャールに確認させたところ、容姿といいその言動といい、マッケンジー辺境伯家の嫡男に間違いないそうだ。
とどめとばかりに、乾いたものに着替えさせ回収した服をあらためると、目立たない位置にマッケンジー辺境伯家の紋章が刺繍されていた……あいつ、本当にバカだ。
「ふむ。私は人質にして交渉するくらいしか思いつかなかった。その場合、あの青年は確かに有効な取引材料ではあるが、切り捨てられれば如何ともしがたい。そなたの顔つきを見るに、その案の成功率はけして低くはないようだ。奇抜ではあるが、はまれば強力であろうしな。よし、かけてみよう。そなたにばかり負担をかけるがよろしく頼む」
「何をおっしゃいます。私たちは運命共同体、夫婦ではありませんか。どうぞお任せください」
急ぐなら船を使うとよいと夫が勧めてくれた上、その他の手配はシャールが滞りなく行ったので、大変スムーズに予定をこなすことができた。
まず、某侯爵家に先ぶれの手紙を出す。
これは大事なことなので自分で書く。
それから、船の到着地となる領地、馬車で通過する領地に、それぞれ着港や通過の許可を求める手紙を出す。
まあ、この国は一応、王のもとにどの貴族も協力し合ってることになってるので、こちらは形式的なものだ。
荷物が少々うるさいけど、まあ、我慢できないこともない。
なんといっても、思った以上に移動時間を短縮できたからね。
先ぶれの手紙が、ちゃんと先に着いているか心配になったくらい。




