73、マッケンジー家の内情
ここからはスピード勝負だ。
男爵邸に戻った私は、矢継ぎ早に手紙を出す。
内容はいまさっき起こったことを客観的に。
そして、それをうわさとして広めて欲しいとお願いする。
宛名は第一茶会の乙女たち。
皆、下位貴族の令嬢だけど、今回に限ってはそれがいい。
彼女たちは社交界の中でも、特に王党派の子弟に大変な人気で、皆、実家の家格より上位の家の子弟と婚約できた。
もっとも、いちばん上で伯爵家だけど、それによって高位貴族には少し遅れて話が広まっていくのが、またちょうどよいのだ。
婚約と言えば我が姉たち、上は侯爵家の次男と、下は公爵家当主の弟と婚約したと知らせてきた。
いや、彼女らから手紙もらったのはじめてなんだけど。
王族を狙ってたことなんて彼女たちの中ではなかったことになってるようで、よほど自慢したかったのだろう。
でも、なぜだか知らん、いまだ律儀に姉たちの借金を利息付きで返済してるアボット伯爵家の執事長が、ついでに主家の内情について報告してくるんだ。
長女の婚約者の実家は確かに侯爵家だけど、ご本人は領地も持たない子爵様。
いや、別にいいと思うよ。王宮勤務で食いっぱぐれはないし。
ただ、非常に生真面目な性格らしく、あの姉の我慢が、いやこの場合相手の我慢か……どちらにせよ、いつまで続くか見ものだ。
次女のお相手は公爵家の末っ子で、なんともありがたいことに婿に入ってくれるそう。
ただ、そこそこ組織管理には通じてるものの大変な女好きらしく、隠し子がどれだけいてもおかしくない。
実家の公爵家も手を焼くほどで、で、放出と。
まあ、うわさなんていつの間にか尾ひれがついてるものだけど。
今回の一件も、役割上いわゆる田舎から離れられないマッケンジー辺境伯が気付いた時には、消しようのないものになってることは確かだ。
そんなわけで、今回に限ってはメグ・ライム・クロスバーはハブで、でも、第一王子のことだからよい耳を持ってるのかな?
手助けしてくれるにしても周囲には悟られないように、少なくともこっちの邪魔はしてこないと思うけどね。
王侯貴族なんて、血筋とか利権とか思惑とか複雑に絡み合いすぎてて、ほんと嫌になるわぁ。
私は、執事長のシャールを呼んで、マッケンジー辺境伯について尋ねる。
すでに私がやらかしたことは把握してるらしい。黒目がちのお目々がキラッキラだ。
「内政にしましても軍事にしましても、凡庸な方です。大変な恐妻家でもあります。よほど本館には居づらいと見えて、同じ敷地内にある別館で寝起きをしているとか……」
「そこには見目麗しい、気立ての良い女性がいるのかしら」
「ご明察です。一応、男爵家の出身という話ですが、まあ、その……妾との間にもうけた男子をたいそう可愛がっているとか。しかし正妻の手前、あの長男を継嗣としてあつかっているようです」
「あら、奥様のご実家はそれほどに力をお持ちなの?」
「いいえ。可もなく不可もなくといった子爵家で、その次女を迎えざるをえなかったのは、高位貴族の間ではこのような辺境に嫁ごうという御令嬢が皆無だったからです」
わぁ、シャールの手にかかると、ぼろっぼろだなマッケンジー辺境伯家。
「ですから私どもは、貴婦人の鑑である奥様と、このように心根が極上な上に万事にすぐれた能力を発揮する方をこの地に導いてくださった何ものかに日々感謝しているのです」
「ありがとう、シャール」
近頃、軽く宗教じみてきた奧様よいしょを聞き流し、もう一つ用事を言い付けて退出させる。
うん。頼んだことは間違いなく、しかも素早く手配してくれるし、とっても有能なんだけどね。
何かにつけて私を持ち上げるのはなんとかならないものか。




