7、不足分
「どうもはっきりしないわね」
簡単に概算を口にする私を死んだ魚のような目で見る執事長。
姉たちが足りない分を私の小遣いから支払ってたのは確定。
ただ正確な金額が曖昧なので、御用商人を呼ばせる。
貴族に呼ばれたら、すっ飛んでくるのが御用商人というものだ。
用向きは執事長を通して伝えてあるので、私が生まれてからの売買記録をすべて持ってきている。
私のために購入したように装っていたものも、目の前で選んだり注文したりしてるわけだから、個人の好みを把握するためにも御用商人側は逐一記録を付けていた。
ありがたいことにメタボな彼は非常に協力的だ。
「横領ってどれくらい罪の重いものなのかしら? 私よく知らないのだけれど、加担しただけでも罪なのよね、きっと」
「そ、そうでございますね」
実際に数字をいじってるのは執事長だけど、命じているのは伯爵夫人で、伯爵がこれを把握してるのかは微妙なところだ。
知ったところで些末なことだって言いそうだけど、伯爵家当主としての面子はどうなる?
管理するべき妻や娘に欺かれてたことに変わりはないもんね。
絶対に表には出さないってことだけは確かだけど。
まあ一度、叱って終わりだろうな。
で、私はなんの補填もされない単なる間抜けで終わると。ないわぁ~。
「執事長、あなたは自分が何をしたかわかっているわよね」
「……はい」
「本来、許しがたいことではあるけれど、あなたの立場ではどうしようもないことなのも確かね」
基本、無表情の男が目を見開く。今日はよく表情筋が動く日か。
「伯爵家の体面を思えば、まさか母を告発するわけにもいかないので、こうしましょう。足りない分を私が姉に貸したのです。おわかりかしら」
「はい、承知しました」
「承知いたしました」
執事長に続いて律儀に応えた御用商人に問う。
「例えばあなたが借り入れをする場合、金利はいかほどになるの?」
「そうでございますね、時期により金額によりまた相手によっても変わりますが、おおよそ平均いたしますと……」
「ではその金利で」
「は?」
「何を惚けているの、執事長。貸したものは返してもらわねば」
「そ、そうですね」
「私も鬼ではないわ。毎年、姉たちのお小遣いの十分の一ほどを使って何年もかけて返してもらえば結構。それでしたら姉たちが買い物をするにも、さほど不自由はないでしょう」
「はっ、そのように」
だいぶ態度が変わったな執事長。それが長続きすればいいけど。
まあ、こっちががっちり弱みを握ってるわけだから、油断しなければ大丈夫か。
「あなたもご苦労様。ついでと言ってはなんだけれど、買いたい物があるのでお願いできる?」
「もちろんでございます」
ただ呼びつけ脅しつけて協力させただけじゃ気の毒だしね。
前々から欲しいものは決まってる!
「魔法のスクロールでございますか?」
「そう、集められるだけ集めて……ああ、重複してはいらないわ。いろいろな種類のものが欲しいの。期限も切らないわ。新しいものが手に入り次第、どんどん持ってきてちょうだい。すべて買うわ」
「あっ、ありがとうございます」
貴族の令嬢がなんでそんなものをと思っても商売は商売。いい笑顔だ。
執事長も少しは見習ったらいいと思うよ。
まあ、あんまりへらへらした執事なんてのも嫌だけどさ。