67、レシピ公開
そんなわけで日常的な仕事に加えて魔法の訓練、船レースの準備だけでも忙しいだろうに、港湾長のグレンも、造船所長のバトリーも、ついでに商業ギルド長のアーノルドもちょくちょく男爵邸を訪れる。
向こうから頼まれることもあれば、こっちから頼むこともあるし、でも、彼らの主たる目的は男爵邸の食事と、あとはこの人たち、約一年後にまた祭りをする気満々なんだ。
いや、私も楽しみだよ。
これだけ準備期間があれば、前回はあきらめたあれもこれもできそうだ。
彼ら曰く、中央広場で競技会を行うのは決定事項。
私が案を出した、有志の音楽隊や舞踊団のパレードもいいんじゃないかと受け入れてる。
しかし、何をおいてもいま彼らが熱望してるのは、グレン男爵邸の料理の作り方を一般に公開すること。
祭り開催時に売るのはもちろん、普段から商会や食堂でも販売したいんだって。
「もちろん、すべてとは言いません。庶民の口にも合う、ほんの一部で……」
低姿勢ながらアーノルドの目は、これ以上は譲れないと言っている。
まあ、私はこれまでのレシピをすべて公開してもかまわないと思ってる。
教えたからって、そう簡単にジャムの領域まで迫れるはずもないし。
敵対組織の上層部や、男爵邸を訪れる貴族にぎゃふんと言わせるための貴重な武器だけど、レシピはまだまだごまんとあるからさ。
ただ、無用な混乱をさけるためにもある程度の選別はさせてもらう。
まず、鮨はまだ早い。
ある程度のレベルを保ちたいってこともあるけど、それより気になるのは衛生面。
一般家庭ではその日とってきたばかりの魚をさばいて即、消費。
これならさほど問題はなさそうし、実際、これまでも問題はなかった。
でも店で売るとなれば、客に提供するために手間をかけ、食材に触る回数が増え、さらに客の口に入るまでどうしても時間がかかってしまう。
うちの料理人のように衛生管理を徹底し、クリーンの魔法まで使える者はまだまだ少ない。
爆発的に菌が増殖するさまが目に見えるようだよ。
冷蔵施設もないことだし、同様の理由でマヨネーズも却下。
アーノルドが非常にがっかりしてるけど、ソースとケチャップで今回は我慢しなさい。
とたんに機嫌が上向いたのは、彼の好物がオムライスだからかな。
いや、商業ギルド長として各商会にどのように製造・販売させるか考えてるんだと思うけどね。
本来は、これだけ良い素材がそろってるのだから、シンプル・イズ・ベスト。
網焼きとかスープとか、最高に美味しくて贅沢なんだけど。
まあ、地元民は飽きるわけだ。
特にソースやケチャップの味を知っちゃうとね……いつかは原点回帰すると思うけど。
そんなわけで私がまずお勧めしたいのは、タコ焼きとお好み焼き。
新鮮な海の幸をふんだんに使えるこの街の強みを生かせるし、調理も比較的簡単で、火を通すから安全・安心。
個人的には、マヨネーズがなくても十分美味しいと思う。
「う~ん、オレは好きだが、家でつくれるもんをわざわざ買ってまで食うか?」
「それは材料のグレードを一段上げたり、料理人の腕で勝負してほしいですわね。そもそもこの街では男女に関係なく多くの人が仕事を持ち、忙しくしているところに持ってきて、そのぶん稼ぎがよいですから自然、外食に傾くのでは?」
「言われてみれば!」
「多少金は払っても、気軽に上手いもんが食えるなら惜しくないわな」
そのために専用の鉄板を作らせるなら、ぜひこれ用のも頼みたい。
鉄板で挟んで圧をかけながら焼き上げるタコの姿焼き!
ピリ辛の味付けがたまらんのだ。じゅるり。
フライは何を揚げてもハズレがないな。エビ、アジ、カキ、魔豚の串カツなんかもいい。
そして、こうやって良いネタが豊富にあるのに、無性にいもフライが食べたくなったりするんだよね。
あと、海といえば焼きそば!って思うのは、この世界では私だけだろうな。
同様の理由で、焼きとうもろこしも外せない。なにせ醤油があるわけだし。
りんご飴もいいなぁ。
その上、なんとこの街では、バナナやカカオなんて外来品も手に入る。
バナナチョコができるよ、いや、チョコバナナか。……まあ、どちらでもいい。
かなり単価は高くなってしまうけど、小さく切り分けて作れば庶民でも買えるかな?
……なんか、ジャムの料理メニュー公開っていうより、たんに私が食べたい屋台飯になってるけど。
仮称、グリム男爵領祭り実行員の面々にもいくつかずつ候補をあげさせて、この日はお開きとなった。




