6、お小遣い
「先日、御用商人が来て、母や姉が買い物をしたわね。私は必要性を感じなかったので見送ったけれど、もし購入したものがあったとしたら、その支払いはどういった名目のもとに誰がするのかしら?」
「……お嬢様のお小遣いから、お嬢様ご自身がなさるものでございます」
ほうほう。
「そのお小遣いとやらが与えられるのは一年ごと? 一月後ごと? また、いくら与えられているの?」
一年でいくらと執事長が示した金額は、私の予想をはるかに超えていた。
でっかいお小遣いだなぁ。さすがは伯爵家といったところか。
「それは一年で使い切らなければご破算になるもの? それとも繰り越しされるのかしら?」
おっ、だんだん執事長の目付きが変わってきたぞ。
「こちらは伯爵家の年間予算から出てはおりますが、お嬢様個人の資産となりますので、使わなければそのまま貯蓄されていくことになります」
ふんふん。
「では、いま現在それはいかほどかしら?」
おーっ、冷や汗すごいね。
「……詳しい数字は帳簿を見ませんと」
「では、その帳簿を持ってきなさい」
「いえ、そちらは旦那様の許可がございませんと……」
「おかしなことを言うわね。私個人の資産について問うているのよ? ああ、お小遣いと言うのだったわね。あなたは財布の中にいくらあるかも知らないで買い物するのかしら?」
「……少々お待ちください」
「ええ、いくらでも待ちましょう、一年でも二年でも。うやむやにできるなんて思わないことだわ。私が何者で、自分がどういう立場なのかよーく考えなさいね」
いくら蔑ろにされようと私は伯爵家の令嬢。
執事長にどれだけ権限が与えられようと、しょせんは使用人だ。
まあ、性根庶民による令嬢ムーブはなかなか骨が折れるけどね。いまのところは良くできてるって自画自賛。
ほら、女は皆女優って言うじゃない。私はいまポリニャック夫人!
オ~ホッホッホッ、悔しかったらベルサイユにいらっしゃ~い。あ、ちょっと師匠も入っちゃったか。




