55、グリムの魔法
別に誰かの御落胤というわけでもないらしいのだけど、じつは、我が夫は風魔法が使えた。
もう少し持続可能で温風が出せるなら、ドライヤーとして最適なんだけど。
まあ、どれだけささやかだろうと魔法は魔法だ。
同じような組織がいくつかある中で、特に選ばれてマックス・ブルー・グリムが男爵位に叙せられたのはそういった理由もあるんだろう。
どれだけ実力があろうと、あの王族や貴族たちが平民を認めるはずがないから、おかしいとは思ってたんだ。
マックスのあずかり知らぬところで貴族の血が入って祖先返りしたのか、低確率で平民にも魔法が発現するのかは私にはわからない。
少なくともサイモンにも風魔法は遺伝してるから、グリム男爵家が安泰であることは確かだ。
「おおーっ!」
サイモンの場合は、父親より細く強く空気を射出するようで、少し離れたところから棚にのった小物を落とすって技を見せてくれた。
これはいま私が目指してることとよく似てる。
そこで、感動した私はついやっちゃったんだよね。
「奥様っ……」
普段は温厚な侍女の目が怖い。
「ごめんなさい」
水鉄砲は室内でやっちゃダメだよね。
もちろん片付けなんか手伝わせてもらえないから、大人しく外に出て、サイモンと射的の腕を競い合ったさ。
ちなみに、男爵邸の使用人たちに限って割引を考えてた魔法のスクロールだけど。
希望者には、給料からの天引、分割払いを認めるってだけにした。
料理人のジャムみたいにすでに自力で手に入れてる人もいたし、給料は夫から十分支払われてるから、余計なサービスが当たり前になるのはよくないだろうって思い直したのだ。
それでも十分好評で、ジャムもさらにいくつか買い足してたな。




